なぜ若者は理由もなく会社を辞められるのか?

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 最近SNSで、新卒入社後にすぐ転職サイトに登録する若者が増えているという話を見かけました。具体的には、10年前の20倍にも及ぶ新入社員が転職サイトに登録しているとのことです。

 また自分の同期の中にも、転職を考えたり、実際に転職活動をしている人がいることは前から知っており、どんな考えを持って転職活動に励んでいるのか気になっていました。

 そんなときに書店の新書コーナーで目に止まったのが、今回紹介する「なぜ若者は理由もなく会社を辞められるのか?」です。

 厳密に言うとこの本は、若者が理由もなく会社を辞める原因を解説していると言うよりは、若者の思想の大きな変化に企業(の権力者)が追いついていないことを教育者(著者)の目線から説く」内容になっています。

 今回は本著の中から、個人的に面白いと思った若者と中高年の思想の違いを、いくつか取り上げたいと思います。

1. 著者の紹介

2. 会社の在り方から見た若者の思想

 まずは「会社」という切り口で、若者と中高年の思想の違いを見ていきたいと思います。

 注意として、著者は大学教授であり、自身の教育現場での体験談を本著に多く盛り込んでいます。なのでここで出てくる意見は、一般論というよりは具体的な事例といった意味合いが強いこともあります。

 もちろん参考文献なども引用して、一般的な議論に歩み寄っている部分も多いので、一つの傾向として見ていただけたらと思います。

2.1. バブル世代とゆとり世代の違い

 会社で新入社員と管理職の思想が異なる根本的な要因として、「将来への希望が持てるかどうか」が取り上げられています。

 よく言われることですが、中高年世代の若かれし頃は、日本経済も成長していたので、当然一生懸命働けばどんどん状況が好転していくという前提条件がありました。

 一方で現在は、経済の成長という意味では停滞しているので、現代の新入社員は、一生懸命働いてもその先に希望を見出せないと感じています。

 このギャップがあるが故に、中高年世代には「新入社員は努力が足りない」と見えてしまうとのことです。

 特に、人間は成功を全て自分の努力の賜物だと思う傾向が強いことが、心理学的に明らかになっているので「俺たちはたくさん努力して成功してきた。新入社員は努力が足りないから成功しないんだ」というマインドになりやすいことも一役買っているのかも知れません。

2.2. 終身雇用の崩壊と若者

 日本経済の将来に希望が持てないことに加えて、会社の雇用形態に関する違いも思想の変化を生んでいます。

 終身雇用の崩壊自体は連日ニュースになっていますが、今の若者は、終身雇用ではないのに年功序列の会社体制になっていることに嫌気がさして勤怠意欲が低下していると言います。

 この事に関して著者は「若者は皆、就業意識が高い」と述べています。

 近年は「成長」という言葉にこだわる若者が多いそうです。これは、仕事を奪われる、仕事がなくなるのではないかという危機意識を含めて職業意識が高いということを指しています。

 終身雇用ではなくなったので、自分が市場で必要とされるのかといった「成長」に注目が集まるのは非常に納得です。

 この「成長」に対しては、専門能力を磨くことが回答になると思っている若者が多いと著者は指摘しています。

 その通りだと思いますが、ここで注意喚起されているのは、主体的に学んで専門能力を磨くのではなく、学べたり体験できたりする場を誰かが整えてくれる、あるいは、整えてくれるべきだと考えている若者が多いという点です。

 「誰か」にあたるのは、企業や上司ということになります。この受け身な姿勢については、会社側が理解を示すことに加えて、若者側も主体的に行動できるように、双方歩み寄って行かなくてはならないのではないかと思います。

2.3. 不透明な人事評価

 若者が会社に不信感を抱く更なる要因として、採用から出世までの人事基準が極めて不透明なことが挙げられます。

 確かに年功序列の風潮が強いと、個人の頑張りというよりは勤続年数で給与なども決まるので、頑張る意義を見出せないという思いも芽生えてくるかも知れません。

 このことに関してで面白いアンケート結果が引用されていました。

 下記のように「人生で成功するためには、何が重要だと思いますか?」という質問を、アジア圏の国々に対しておこなったところ、日本もその他の国も同様に「一生懸命働くこと」が1位でした。

 ただ、2位以降の回答が日本とその他の国では異なりました。諸外国は「変化を喜んで許容すること」「ふさわしい人々とのつながりやネットワーク」と続くのに対し、唯一日本のみが「運」が重要であると回答していたとのことです。

 2位に「運」がくるくらいには一生懸命働いても報われないと考えている人がいるというのは、覚えておくべきことのように感じます。

3. 社会の在り方から見た若者の思想

 次に会社よりもより大きな視点として「社会環境」から見た若者の思想をいくつか取り上げたいと思います。

3.1. 具体的な答えが手に入る社会

 近年一番大きな社会環境の変化として、スマホの普及は真っ先に思い浮かぶところだと思います。

 この事が何に影響しているのかというと、スマホで様々な情報を取れる若者は、具体的な解決策を求める傾向があり、抽象的な話で誤魔化す上司や大人は最悪に映る傾向があるという事です。

 それに対して中高年世代が新入社員の頃は、仕事は体で覚えろという文化が色濃く、上司が事細かに業務を説明してくれた経験を持ち合わせていないことから、具体的なアドバイスを与えないのが普通であり、思想のギャップを生んでいると著者は指摘しています。

 この具体と抽象のミスマッチについては、細谷功さんの名著があるのでよろしければ合わせてご覧ください。

「具体⇄抽象」トレーニング
現代人に必須の思考法を実践的に解説した名著を図解しました。

3.2. やり抜かなくても許される社会

 もう一つの社会環境的な変化として、社会が豊かになってやり抜かなくても許されるようになった事が指摘されています。

 これは私自身読んでいてハッとしたのですが、最近の若者は絶対に失敗できない経験をすることが少なくなっていると言われています。

 終身雇用ではなく、会社の将来に希望が持てないのであれば、出世コースに乗ることが必須ではないですし、受験等も入試形態が多様化して何度も挑戦できる仕組みへと移り変わっています。

 人間関係に関しても、国民皆結婚時代でもなくなってきていること、身の回りの人間関係もSNSで好きなように代替できること、といった変化が起きています。

 一方で著者は以下のように言及しています。

「実社会や税金が絡んで失敗できないというプロジェクトは学生の学びが非常に大きいです。やりきったという実感を持たせることほど教育効果の高いものはありません。些細なことかもしれませんが、何らかのハードルを乗り切ったことで自信がつき、自分自身を大きく変えることができたという経験は誰にでもあるはずです。こういう経験が一生ないままだと、どこか不安気な表情でずっと人生を送ることになります。」
本著 第7章 「もはや小中高と大差ない大学」より

 3.1で述べた、具体的なアドバイスをするという事が、中高年世代の歩み寄り方なのだとしたら、若者もまた絶対に失敗できない経験を通じて、自分に自信を持つことで、主体的な「成長」のための行動をしていく必要があるのかも知れません。


 バブル世代と今の若者とでは、思想にギャップがあることはぼんやりと認識していましたが、その理由について、具体例を提示されていて、ふむふむと思いながら読めたのが面白い一冊でした。

 新鮮だったのは、若者の思想の変化を、教育現場である著者と、企業役員とでかなり異なる捉え方をしているということだったかなと思います。

 平均寿命が延び、間にIT革命を挟んだことにより、世代感ギャップが大きくなったとの指摘が本著にありましたが、それは自分と、自分より若い世代でも同じだろうかと、今後について考えるきっかけになった点も良かったです。

 そして若者は何を考えているかを学ぶとともに、本著で強調されていたような、社会情勢がどういう状況にあるのかということにも注意を払わなくてはならないと思います。飲み会ができずに過ごした大学1年生は、今後も他者との交流に消極的な生き方をするのだろうかと思いを馳せるのも面白いかも知れません。

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