結婚不要社会

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 前回「未婚化する日本」という本の紹介の中で、日本の未婚化が進んでいる原因として以下の2つを取り上げました。

  • 異性との出会いが、より個人努力を必要とする形態に変化したこと
  • 高齢化により引き上げられた平均初婚年齢によって、男女間の結婚観がズレていること

 今回は「未婚化する日本」で言われていたように、日本が「結婚困難社会」になっただけではなくそれを土台に「結婚不要社会」になってしまったということをご紹介したいと思います。

 なぜ”困難”ではなく”不要”とまで言えるのかというと、本著では以下の観点で結婚を俯瞰しているからです。

  • 日本の結婚を歴史の流れの中で考察している
  • 日本の結婚と欧米の結婚を比較して考察している

 このような背景で今回ご紹介したいのは、社会学者で「パラサイト・シングル」や「婚活」という流行語を世に生み出した山田晶弘さんの書かれた「結婚不要社会」です。

 この本を読むと「なぜ日本で結婚が不要になっているのか」や「今後結婚についてどう考えたらいいのか」をお分かりいただけると思います。

 では上述した歴史の中の結婚と、欧米と比較した結婚の2つに沿って取り上げていきたいと思います。

著者の紹介

topic.1 日本における結婚の役割の歴史的変化

 まずは日本における結婚の役割の歴史的な変化です。

 ここでは20世紀前半の「前近代」、20世紀後半の「近代」、21世紀の「現代」といった3つの括りで議論を進めていきます。

 結論としては、それぞれの時代において結婚に求められていた役割は以下のようになります。

  1. 「前近代」 家を継ぎ、財産を相続するためのもの。
  2. 「近 代」 経済(生活)の安定とパートナーとの親密性を構築するもの。
  3. 「現 代」 制度上の面倒さを回避するもの。

 ではそれぞれの特徴及び、なぜ役割が変化していったのか掘り下げていきます。

1.1 「前近代」→「近代」への移行

 まず、前近代は農業を中心とした家業の継承という形で、結婚する夫婦が親族という括りにしっかりと守られている構造でした。

 これは、生活の安定が夫婦だけでなく親族の中でカバーできること、心の拠り所となる人間関係がパートナーだけでなく、親族という集団であるという点が特徴的です。

 一方で親族の承認がないと結婚できなかったり、家業を継ぐしか選択肢が無いといった事実もあります。

 このような状況からの大きな転機として、社会の近代化による雇用形態の拡大により「職業選択の自由」が生まれたことが挙げられます。

 結婚という観点だけで話すのであれば「職業選択の自由」が生まれたことは「経済的に生活が自動的に保障されない」社会になったと言い換えることができます。

 また自分のやりたい職業に就くということで、当然親世代とは生活圏を別にする人たちが増えました。このことは自分の拠り所となるコミュニティや、自分の人生の意味のようなものを自分で探す必要が出てきたことを意味します。

 こちらも結婚という観点で話すと「自分を承認してくれる相手を自力で見つけ、場合によっては孤立するリスクも負わなくてはならない」社会になったと言い換えることができます。

ポイント Point
 まとめると、近代化によって生じた職業選択の自由を求め、家を飛び出した若者が「経済的に安定した生活」をおくり、「自分の居場所となるコミュニティ」を持つためには、結婚が必要不可欠であったということになります。

1.2 「近代」→「現代」への移行

 前近代から近代への移行が「職業選択の自由」によって引き起こされたのだとしたら、近代から現代への移行は何によって引き起こされたのでしょうか?

 著者はこれが「1997年アジア金融危機」にあったと言います。

 近代の日本では高度経済成長によって、基本的には給与は右肩上がりであったため、働いてさえいれば経済的な安定が保障されているといっても良い傾向にありました。

 一方でアジア金融危機をはじめとした日本経済の停滞により、非正規社員が増え、働いていても給与は上がらず、終身雇用も約束されていないといった状況に変化しました。

 経済的に不安定になったにも関わらず、人々の意識としては近代の「結婚後は夫の給料で生活するから高収入な相手が良い」のままなので、要件を満たせる男性の数の減少とともに、自然と結婚は困難になっていきました。

 加えてもう一つの大きな影響は性革命」によって愛情を持って性関係を楽しむ(好きになった相手と性関係を含んだ親密なコミュニケーションを持つ)ために、結婚というかたちを取る必要がなくなったということが挙げられます。

 1960年代にアメリカで始まった性革命はフェミニズムの運動とも連動し、女性の性意識の解放を要求しました。それが時間差で日本にも浸透してきたということです。

 さらに時を同じくしてアメリカでは離婚の自由化も進みました。これにより、結婚したからといってパートナーとの親密性が永続的に保障されるという前提が崩れることとなります。

ポイント Point
 まとめると、金融危機や聖革命によって、結婚に経済生活の安定を求めることもできなくなったし、結婚したからといって親密性が保証されるわけでもなくなってしまった為、結婚というものが、相続など行政周りの制度上の面倒さを回避するだけの役割になってしまったということです。

topic.2 欧米と日本の結婚観の違い

 先ほどの日本の中での結婚観の歴史的な変遷について取り上げましたが、次は現代における結婚観を日本と欧米で比較して考察していきたいと思います。

 面白いのは日本と欧米、どちらも「結婚不要社会」に辿り着いていながら、その背景が全く異なるという点です。

2.1 欧米の「結婚不要社会」

 欧米、とりわけアメリカや北西ヨーロッパの大きな特徴は、男女ともに経済的に自立することが求められており、かつそれが実現できるほどに社会が整っているという点が挙げられます。

 日本の男女間経済格差が世界的にみても酷い状況にあるのはよく聞く話かと思いますが、格差が是正されつつある欧米では、男女双方が経済的に自立している(女性の社会進出や経済状況、福祉制度)ため、愛情だけでパートナーを選ぶケースが多いと言います。

 結婚に愛情だけを求め、経済的な保障を気にしないのであれば、当然あえて結婚する必要はなくなります。

 実際、欧米では結婚が減少する代わりに同棲や事実婚が拡大しているとのことです。

 男女双方が経済的に自立しているのなら、独身を楽しむ人がもっと増えてもいいのではないか?と思われた方もいるかもしれません。

 このことに関しては、日本との違いとして「パートナーがいないのはみっともない」という社会的圧力がある点が挙げられます。

 日本では休日に親子や同棲の友人と遊びに行くのは極めて一般的かと思いますが、欧米ではそれは少数派ということになります。

 加えて親密性をお金で買うキャバクラなども日本では一般的ですが、欧米の人からすると「話を聞いてもらうのになんで金を払わなくちゃいけないんだ。恋人や同性の友人にタダで聞いて貰えばいいじゃないか。」という風に思われると言います。

2.2 日本の「結婚不要社会」

 では上述した欧米の状況を日本の視点から見ていきます。

 先ほども触れましたが、日本は未だ男女間の経済格差が大きく、経済的に自立している女性が少な猪が現状です。

 したがって結婚において「経済的保障」も「愛情」もどちらも譲れないという判断をされることが多いそうです。

 そうなると当然起こるのは「好きな相手が経済的にふさわしいとは限らない」と「経済的にふさわしい相手を好きになるとは限らない」という二つの矛盾です。

 この矛盾に関して著者の新聞記事での相談コーナーが取り上げられていたので引用します。

 50代女性。20代半ばの娘のことで相談します。娘は昔から割り切った考えを持ち、結婚も「お金があり、温和な人」とすると決めています。絵を描くのが好きで、将来も心おきなく絵を描くため、養ってくれる人を望んでいます。婚活サイトで、有名大学を卒業して大手企業に勤務する人と出会い、お付き合いして3か月になります。
 ただ、楽しそうではありません。好きなのかと尋ねると、「嫌いではない」と返事があり、「お金が大事だから」とも答えます。娘には以前、数か月に1度会う男の人がいました。一緒にいて楽しそうだったのですが、相手の家庭事情から交際は断りました。娘が割り切って今の人とお付き合いできればいいと思いますが、戸惑いがあるようで、過去の人を懐かしんでもいます。親としてどうアドバイスをすればいいでしょうか。

(著者の回答)
 娘さんが、好きよりも経済生活を優先するという決断をしている以上、それを尊重するしかないと思います。あなたと私は同世代とお見受けします。恋愛を楽しんで結婚するのが当たり前の時代に生きてきましたよね。でも、今は「恋愛感情はいつか冷める。お金は裏切らない」と言う若い人もいます。経済優先の若い人が増えていることに、私もあなたと同様に寂しさを感じますが、時代の流れとしか言えませんね。といってあなたの考えを曲げる必要はないのですよ。娘さんと仲が良いご様子です。反対せずに、お母さんなら前の人がよかった、などと言ってみては。それで揺らぐようなら縁がなかったということですし、それでも結婚するなら認めるしかないと思います。

「結婚不要社会」第5章 「結婚不要社会」へ ー近代的結婚の危機 経済か?愛情か? より引用

 このような矛盾の中では、人それぞれ思うところがあるはずですが日本の制度という点に着目すると、欧米との違いがさらに見えてきます。

 欧米では離婚が一方的にできるのに対して、日本は仕組み上、一方的には簡単に離婚できないようになっています。

 例えば夫の浮気が原因で離婚することになった場合、妻側は多大な慰謝料を請求できることが一般的です。

 ただこれは夫の収入が多い場合であり、夫が低収入であった場合は慰謝料はもらえません。

 したがって愛情は歳と共に薄れたとて、高収入なパートナーと結婚することができれば経済的にはある程度保障されるというわけです。

 この経済格差が結婚格差に直結する社会構造の中、日本は経済的に長期低迷しているわけですから、結婚相手選びが少数の高所得者をめぐるレッドオーシャンとなり、全体としてみれば「結婚困難社会」となっているのはご納得いただけるかと思います。

 加えて欧米にはあった「パートナー形成圧力」は日本には無く、おひとりさまで楽しむ文化・サービスも充実していますから、結婚が困難なのであれば独り身でもいいという「結婚不要社会」へと変貌していくわけです。

ポイント Point
 まとめると欧米の「結婚不要社会」は「パートナー必要社会」であるのに対して、日本の「結婚不要社会」は「パートナー不要社会」であると言えます。

おわりに

 前回の「未婚化する日本」に続いて未婚化の原因を見てきましたが、見れば見るほど歴史的にも、国の文化や制度的にも未婚化が進む方向にあるんだなということを痛感しました。これが良いか悪いかについてはまた別の議論かと思いますが、著者の主張にはとても納得できました。

 個人レベルでこれがどう関係してくるのかというと世代や価値観によって様々ですが、結婚したいけどできないという人は自分とパートナーの経済的な面について今一度考えてみたり、結婚したいと思わないけど世間体が心配という人は欧米ではそれがマイノリティーではないと知ることでより良い人生になるのかなと思いました。

 本著では今回取り上げた内容以外にも、結婚について歴史的にも世界的にも深堀しているので、興味をお持ちの方は是非ご一読ください!

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