新型格差社会

おすすめ本

以前、「結婚不要社会」という本の紹介の中で、時代の変化とともに「結婚」が果たす役割が移り変わっていき、日本は結婚困難社会かつ結婚不要社会になっている、という内容を取り上げました。

「結婚不要社会」の著者で、社会学者の山田昌弘さんは、2021年4月に出版した「新型格差社会」で、結婚だけでなく社会学全体的な視点として、コロナ禍によって日本社会で可視化されていなかった2つの事実が露わになったと述べています。

その2つの事実とは、次のように表現されています。

  1. 今まで見ようとしてこなかった「格差」がはっきりと見えるようになったこと
  2. 「過去の社会に戻ることはできない」という予感がすべての日本国民に広く行き渡ったこと

本著では、コロナ禍で加速することが予想される格差を、社会学の観点から5つに分類して解説しています。

今回はその中から「家族格差」「地域格差」にフォーカスしてご紹介したいと思います。

家族格差

家族間における格差のキーワードは、皆さんご認識のとおり「戦後型の主に夫の収入で生活する家族の限界」が明らかになっていることです。

これは経済的な面が大きいのですが、家族の金銭状況に加えて、家族間の愛情の格差も広がり、生活の質に影響を与えていると言います。

家族の経済状況における格差

家族経済の変遷

高度経済成長後、1991年のバブル崩壊と1997年のアジア通貨危機によって、事実上破綻した日本経済は、今まで例外と見なされていた、非正規雇用を増やす対応を行ってきました。

日本経済は回復したのですが、これにより「非正規で頑張って働いても、家族を養っていける収入を得られるとは限らない」と言う「格差社会」が出現したと言います。

このような経済的な格差は、自殺者数の増加に表れていると著者は述べています。

アジア通貨危機が始まった翌年の1998年、自殺者数は3万2千人にも及び、前年の2万4千人から急増しました。

コロナ禍での家族経済

ではコロナ禍で、自殺者数はどのように変動したのでしょうか。

景気の回復などにより2010年から2019年にかけて減少傾向にあった自殺者数ですが、2020年6月ごろから増加に転じています。

(自殺者数|警視庁 https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/jisatsu.html

特に著者が気にしているのは、10〜30代の若年女性の自殺者数の増加です。

経済的に弱い立場におかれていた若年女性は、コロナによる収入減や、養ってもらう家族の収入減により、将来への希望を奪われた、それが自殺者数の増加につながっているのではないかと述べられています。

このことから得られる考察として、経済的格差の上層と下層にいる人では、下層にいる人ほどコロナ禍による総合的なダメージが大きいということになります。

夫がサラリーマンとして安定した雇用についている家族でも、今の日本社会にはギリギリの水準で生活を続けている世帯が少なくありません。例えば40代の夫が毎月残業をして30万円の手取り収入を稼ぎ、そのうち住宅ローンに10万円払い、残りの20万円で4人の家族が生活しているといった家庭です。年に2回のボーナスを活用して車のローンを支払い、中学生の子供の塾代などは妻がパートで得た収入に頼る、といった具合に何とか中流の生活を維持しています。

新型格差社会 第1章 家族格差 〜戦後型家族の限界 より引用

この引用に描かれているように、何かイレギュラーな事態が起こると、中流の生活を維持できなくなる日本家族の現状があると言えそうです。

夫婦間にどれだけ愛情があるかの格差

家族格差における2つ目の要素は夫婦間にどれだけ愛情があるかの格差です。

私は初めて聞いた言葉でしたが、20~30年前ごろ、退職した夫は「濡れ落ち葉」と揶揄され、家では寝転がってテレビを見て、妻は友人と趣味の会合に出るなど、それぞれの日々を送っていると言うのが一般的な高齢夫婦の姿であったと著者は述べています。

一方現在では、高齢になっても頻繁に旅行に行ったり、同じ趣味を楽しむ夫婦もいれば、愛情を完全に失うも形式上の婚姻関係を続けている夫婦もいたりと二極化が進んでいるとのことです。

仲良し夫婦や、形式上だけの夫婦がいることは分かりますが、なぜ二極化するのでしょうか?

ここで著者は、夫婦の愛情格差が露わになる原因として、従来の退職によって夫が家にいる時間が増えることに加え、コロナ禍のステイホームでこれが強制的に作られることを挙げています。

実際に著者は、以下のような意見が散見されたと述べています。

これまで夫は朝から夜まで会社に行っていたため、家庭内で交流する時間が少なく、ギリギリの関係を維持できた。しかしコロナでお互いに在宅時間が増え、夫の顔を見ているうちにイライラが我慢できなくなった

新型格差社会 第1章 家族格差 〜戦後型家族の限界 より引用

さらにコロナ禍では、夫側のキャバクラや、妻側の友人とのランチといった、ストレス発散の場の縮小も強いられる形となったため、より深刻な事態になっています。

つまりコロナ禍では、若い夫婦であっても、一緒に過ごす時間が従来より長くなるため、愛情を持った関係性を継続できるのか否かが二極化するとともに、外でのストレス発散の場も制限されることからこの動きが加速すると言えそうです。

地域格差

コロナ禍での地域格差と聞くと、リモートワークが主流になったことによる地方移住や、それに伴う地域の活性化の話かなと思っていましたが、ここではそれだけでなく、ライフステージごとの地域の役割や、地域の社会階層化について取り上げています。

ライフステージごとの場の格差

地域の過疎化となる原因は「出生数の低下」と「人口流出」があります。

「人口の流出」に関して、昔は進学で都心に引っ越しても就職で地元に戻ってくる人、就職で都心に引っ越しても結婚を機に地元に戻ってくる人などがいたそうですが、近年は地元から転出し、二度と戻らない人が多い傾向にあると言います。

地元に戻ってこない人たちは「地元に戻れない」のか「地元に戻りたくないのか」どちらなのでしょうか。著者はその両方であると述べています。

地元に戻れない

地元に戻れない要因として、生まれ故郷にはライフステージに応じた「場」がないことが指摘されています。

分かりやすいところで言えば、仕事の「場」、医療の「場」、教育の「場」があります。

仕事の面では、リモートワークが主流になったとはいえ、月に一回や週に一回は出社が義務付けられている企業も多く、100%フルリモートでない限り、職場からの距離は一定の範囲内に留めなくてはなりません。

医療の面でも、リモート診療の機運が高まっているとはいえ、小さい子供がいる家庭や高齢者がいる家庭では、不意の体調不良の際に適切な医療機関にアクセスできる環境は必須となります。

最後に教育の面ですが、親は自分が受けてきたレベルの教育を、最低限子供に受けさせたいと思うことが知られていて、人口の少ない地方での教育機関の質がネックになると言います。

地元に戻りたくない

地元に戻りたくない要因として、ここでは地方の画一化された価値観から抜け出したいと考える若者の存在が取り上げられています。

著者が東京の大学で教える学生の中には、地方出身の女子学生もたくさんいるそうですが「地元にたまに帰るのはいいけど、定住するのは絶体にイヤ」と言う声が聞こえてくるそうです。

昔ながらの家父長制的価値観が、家庭にも企業にも地域社会にも根強く残っており、それが嫌でたまらずに出てきたとのことです。

(「地方創生のファクターX~寛容と幸福の地方論~」https://lifull.com/news/21787/

女ならば男に従って当たり前。嫁は夫や舅、姑の世話をするもの。女が働くなんてとんでもない。早く結婚して孫の顔を見せてくれ。そんな生き方は世間体が悪い。会社でも女性のお茶くみは当たり前。地域の会合では、女性は延々と台所に立ち続け、飲み食いするのは男性ばかり。 令和時代の現在も続いているこの因習を、自分の生まれ故郷に帰ったら踏襲しなくてはならない。そんなのは絶対に嫌だから、何が何でも都心で就職して、都心で暮らせる人と結婚するんだ。そう言う決意を何度も耳にしました。

新型格差社会 第4章 地域格差 〜地方再生の生命線 より引用

エリアの社会階層化による格差

先ほど述べた、教育の話とも関連しますが、地域格差のキーワードとして、自分と異なる<社会階層>の人々がいる場所には住みたくない、という意識が人々の中に定着し初めていることが指摘されています。

具体的には、子どもを持つ家庭が教育熱心な地域に引っ越したり、子どもを私立の中学校に入学させるといった動きが強まっているそうです。

この背景には、教育格差が将来的な経済格差に繋がりかねないという親世代の不安感があります。

そしてこの傾向は女子を持つ家庭でより顕著であるそうです。

著者の推察では、「男子を持つ家庭は、世間の荒波に揉まれて自力で現場打破する力を身に付けてほしいと願うのに対し、女子にはわざわざ苦労させたくない、できるだけ育ちの良い家庭の子達と交流させたいと言う願望があるのかもしれない。」となっており、昨今の中高一貫校ブームと相まって、このような動きが加速していると言います。

このような、自分と異なる<社会階層>の人々がいる場所には住みたくないと言う意識が顕在化した事例として、イギリスでのコミュニティ開発の話が取り上げられていました。

まとめると、地域間の格差の問題は、働きたい企業や適切な医療機関があるかどうかといった物理的な環境による要因だけでなく、自分と異なる階層の人々がいる場所には住みたくない、自分と異なる価値観が根付いた地域には住みたくないといった、人々のマインドの要因からも深刻な状態となっていると言えそうです。

おわりに

私自身はまだ独身ですが、自分がテレワーク主体ということもあり、パートナーもテレワークだった場合に、常に同じ空間にいるという状況が発生します。特に意識はしていなかったのですが、本著で紹介されていたような現実を踏まえると、より一層結婚に慎重になってしまうような気がしました。

地域格差に関しても、本著にあるように地元を離れ、戻るつもりもないタイプです。完全リモートワークではないので、都心に住むことは必要ですし、たとえそうでなくて友人がほとんど東京にいるので、あえて地方に移住する選択肢はないなというのが現状です(家賃高いのは気になりますが)。

著者は地域格差の章の最後に、多様な価値観を持つ人が助け合い共存できる地域社会の実現を願っていると述べていますが、その具体的な方法についてはかなり包括的に考えないといけないなと思ってしまいました。

今回は2つの格差を取り上げましたが、その他の「教育格差」「仕事格差」「消費格差」も興味深い内容だったので(特に教育格差)、気になった方は是非ご一読ください!

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