insight

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 以前別の記事で「人生で成功するためには何が必要ですか?」という問いに対して、日本人はアジア圏と比較して、運が大切だと考える人が多いということに触れました。しかしながら、日本もアジア圏も共通して1位にランクインしたのは「努力」でした。

 この努力に関してよく言われることとして、努力の方向性が間違っていると意味がないということが挙げられると思います。

 ではここで言う、努力の方向性を決めるためには何が必要なのでしょうか。回答はたくさんあると思いますが、その中のひとつに「自分を正しく理解すること」があります。自分のことが理解できていれば、目標達成のために何をすべきかが自ずと明確になってきます。

 今回はこの、自分を正しく理解すること(自己認識)に関する本をご紹介したいと思います。

 本著「insight」は2017年に米国で出版され、2019年に邦訳版も販売されました。自己認識に関する研究が528ページにもわたって記載されているボリューム感のある一冊です。

 アガサ・クリスティの長編小説「春にして君を離れ」を読んだことがある人なら、自己認識が欠如していることが、どれだけ恐ろしいかがピンとくると思います。この小説は、ある夫人が、悪天候のためレストハウスに何日も留まることを余儀なくされ、そこで自分の人生や家族の認識について思いを巡らせるというあらすじです。(「君はひとりぼっちだ。これからもおそらく。しかし、ああ、どうか、きみがそれに気づかずにすむように。」の一節は個人的にはホラーのように感じました。)

 自分のことを正しく知ることは、直感的に大切なことだと感じると思いますが、本著の画期的な部分は、多くの人々が間違った方法で自己認識をしようとしていることに警鐘を鳴らしている部分です。

 具体的には「自己認識を深めるために内省する(自分のことを考える)ことは、ミスリードになり得る」といったことが指摘されています。

 自分のことを理解するのに自分のことを考えないでどうするんだ!と思ってしまいそうです。

 以下では、ボリュームたっぷりの本著の中から、内省をせずしてどうするんだという点に的を絞ってご紹介します。

・著者について

・本著の構成

 本著は528ページあるだけに、凄まじい内容の濃さとなっています。

 大きく分けると、個人の自己認識についての章と、個人にとどまらず組織の自己認識についての章に分けられます。前者はさらに内的自己認識についての章と、外的自己認識についての章に分けられています(用語の意味は後述)

 著者は各界の成功者と言われる人の中から、人生の途中で自己認識が劇的に向上した人(生まれつき自己認識ができているタイプの成功者は参考にならないため)を50人選出し、全員にインタビューを行っています。

 その体験談が随所に散りばめられているため、528ページという豊富な内容になっています。

 今回はその中から、具体的な行動例が比較的取り入れやすい、5章・6章の「内的自己認識」の部分をピックアップしてご紹介したいと思います。

 7章・8章の「外的自己認識」の部分もとても面白いのですが、具体的な行動例としては一人でできない(友人を巻き込んでやる必要がある)ものが多いので今回は「内的自己認識」の方を選択しました。

1. インサイトとは

 まず初めに用語の整理から行いたいと思います。本著ではそれぞれ以下のように定義されています。

自己認識
自分自身のことを明確に理解する力 ─ 自分とは何者であり、他人からどう見られ、いかに世界へ適合しているかを理解する能力

内省
自分について考えること。

・インサイト
自分自身に対する気づき。自己認識を促進するアハ体験のようなもの。

内的自己認識
自分自身を明確に理解する力のこと。自分の価値観、情熱、野望、理想とする環境、行動や思考のパターン、リアクション、そして他者への影響に対する内的な理解。

外的自己認識
外の視点から自分を理解すること。周りが自分をどう見ているかを知る力。

 内省している状態を「線」とするならば、インサイトは「点」のようなイメージです。

 本著は、自己認識に重要なのはあくまでインサイトであり、内省にばかり身を任せるのは危険だと言うスタンスをとっています。「線」のように絶えず思考するのではなく「点」としての気づきを増やそうということです。

 そして自己認識には内的自己認識と外的自己認識があり、それぞれ「自分自身を正確に認識できているか」、「自分が他人からどう見られているかを正確に認識できているか」を意味しています。(余談ですが驚くべきことに、内的自己認識と外的自己認識には相関がないことが指摘されています。)

 では、インサイトをうまく得て、自己認識ができているとどのようなメリットがあるのでしょうか?本著では複数の研究に基づき、自己認識のメリットがこれでもかと示されていました。

 何かと列挙しましたが、自己認識ができていると、自分の幸福・成功のために何をすればいいかがわかるという風にまとめることができそうです。

 では次章から「内的自己認識」にスコープを当てて話を掘り下げていきたいと思います。

2. 内的自己認識の間違った考え

2.1. 内省とインサイトについて

 まず初めに著者は、内的自己認識に関する間違った考えについて「内省」「インサイト」には相関がない点を取り上げています。冒頭で紹介した部分ですね。

 その原因として、多くの人は自分がどういう人間か?の問いに対する、絶対的で唯一の真実があると思い込んでおり、内省を通じて自分の奥深くに眠っているはずの真実を発掘するのが仕事だと誤解していると著者は指摘しています。

 実際はより複雑で、単に「自分はシャイだ」という場合も、ある人と場所Aにいるときはシャイだが、別の人と場所Bにいるときは積極的になるといったことが往々にしてあります。

 なのに「自分はシャイだ」ということが絶対的な事実であると誤認してしまうと自分自身を誤って認識していることとなります。

 この点は以前紹介した「ハーバードの個性学入門」のコンテクストの原理に通づるところがあるのでよろしければ併せてご覧ください。

 ここでポイントなのは、内省の中で自分について「why(なぜ自分は今のような人間なのか)」で考えると、一番簡単でもっともらしい答えを当てはめてしまい、間違った自己認識をしてしまうことです。

 このことに関して、本著では以下のような面白い例が取り上げられていました。

 人は一旦最もらしい答えを見つけると、たいていそこで他の選択肢を見ることを止めてしまう傾向があると言います。自分が見つけた答えが正しいか間違っているかを確認する方法など持っていないのにも関わらずです。

2.2. 正しい内省について

 上記では間違った内省の仕方や注意点に触れてきました。

 ではインサイトを得ることにつながる内省とは、どんなものなのでしょうか?

 解答としては、自分について「what(自分はどんな/何がしたい人間なのか)」で考えることが挙げられます。

 「why」の質問は自分を追いつめ、ネガティブな感情を引き起こしますが、「what」の質問は自分の潜在的な可能性に目を向けさせ、好奇心を引き出してくれることが明らかになっています。

 よりよい未来につながる気づきとなるのは、whatで考えて得た気づき方法であるということですね。

 ただし「why」での思考がいかなる場合でもネガティブな振る舞いというわけではなく、チームや組織の課題解決の時には役に立つことには注意が必要です。なのでざっくりと、自分のことを考えるときは「what」で、身の回りの人のことを考えるときは「why」で考えよということになります。


 また内省のツールとして用いられることが多い「日記」についても、警鐘が鳴らされていました。

 具体的な内容としては、ポジティブな内容を書くときはその理由などを掘り下げないようにすることです。なんとなく、良いことがあったら、何故良いと思ったのかを掘り下げることで、今後の幸福にもつながりそうですが、ポジティブな瞬間を分析すると、その瞬間から喜びが奪われることが研究によって明らかになっています。

 逆にネガティブな内容に関しては、その内容を分析し、学びや成長の機会と捉えることで大きな見返りを得ることができます。

 なのでこちらもざっくりと、ポジティブな内容は掘り下げすぎず、ネガティブな内容は検証することを意識して日記を書くべしということになります。

3. 内的自己認識のためのツール

3.1. マインドフルネスについて

 次に自己認識と関連の深い「マインドフルネス」について取り上げます。

・マインドフルネス
判断を下したり反応したりすることなく、ただ自分の思考・感情・行動に気づくこと

 マインドフルネスではない(注意力が散漫な)状態だと幸福度が下がるということが、いくつかの研究で明らかになっています。さらに、自分の思考、感情、そして行動を監視したりコントロールする力がなくなり、実質的に自己認識が不可能になることも示されています。

 ここでいう周囲力が散漫というのは、メールやSNS、ソシャゲなどになどに気を散らすことやマルチタスク(動画を見ながら違うことを考えたり)といった、絵に描いたような現代あるあるのことを指しています。

3.2. 瞑想以外のマインドフルネス

 ではマインドフルネスに努めようと思った時には何をすればいいのでしょうか?多くの人がまず最初に思いつくのは何かと話題に上がる「瞑想」だと思います。

 瞑想はもちろんマインドフルネスのツールですが、本著ではマインドフルネス=瞑想ではないという点が強調されています。というのも著者自身があまりじっとしていられないタイプらしく、本著の中には妹に連れられて瞑想のイベントに参加し、集団で数十分間、歩行瞑想を行った時は、気が狂いそうになったという笑える体験談が記載されていました。

 では瞑想以外のマインドフルネスには何があるのでしょうか?いくつか紹介されていましたが、その中でも具体的で実践しやすいものとしては、スマホを置いて散歩に出かけることが挙げられています。

 これとマインドフルネスがどう関係するかというと、マインドフルネスの核心である「新しい区分けをするプロセス」すなわち自分自身と世界を新たな形で見ることをしやすくなると言います。

 このままだとかなり抽象的ですが、例えば見知らぬ場所に行った際に、注意深く景色を観察して新たな事実に気づくように、注意力が散漫となる根源のスマホを置いて散歩に出ることで、日常の景色の中にも新しい気づきを見つけることができ、これがインサイトに結びつくと言われています。

 歩きスマホの多さや電車の中でスマホを見ている人が大多数であることを考えると、かなり慣れないことかもしれませんが、個人的には瞑想苦手なので、散歩が瞑想の代替になることが科学的に証明されているのは朗報に思えました。


 今回はコンテンツ盛りだくさんの本著の、ごく一部しか紹介できませんでしたが、自己認識がいかに必須のスキルかということと、そのための行動として思い浮かびがちな内省には、多くの誤解があり注意が必要ということが分かるだけでも大きな学びなのかなと思います。

 自己認識のように定量化しにくい事柄は軽視されがちですが、自己認識が人生をよりよく生きることに大きな影響力を持っていること、そしてこれも本著に書いてありましたが、年齢に比例して身に付くスキルではないことから、意識的に学ぶ必要がある事柄かもしれません。
 全部読むのはなかなか体力が必要ですが、体験談が多く楽しみながら読める一冊で、今回紹介したアクション事例の10倍以上のコンテンツが紹介されている学びの多い一冊なので、ぜひお手に取って読んでみてください!

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