Humankind 希望の歴史・下

おすすめ本

「Humankind」。前回の上巻に続いて、下巻のご紹介です。

軽く振り返ると上巻では次のようなことを見てきました。

  • なぜ多くの人が人間の本質は悪だと考えているのか?
  • 人間の悪についての作品はあくまで作り話で事実とは異なる
  • 人は基本的に多くの場合で他人を助ける善人である

このことを踏まえて下巻では次の3つにスコープしていきます。

  • 数少ない悪行が起きるのはどんな時か?
  • 他人への偏見を防ぐにはどうしたらいいか?
  • (まとめ)今日からできること

上巻に負けず劣らず下巻でも、著者の各研究に対する深掘りが凄過ぎて、驚きの連続でした!

そして上巻よりも「するべき具体的な行動」に焦点が当たっているので、内容を身近に感じながら読める一冊でした!

では3つを順に見ていきたいと思います。

共感は良いことか?

最初のテーマはこれです。

「数少ない悪行が起きるのはどんな時か?」

上巻で人の本質は善であり、多くの人は他人を助けることを見てきました。

ではテロ行為といった悲惨な事件はなぜ起こるのでしょうか。

テロリストの特徴

ナチスやテロリストは、サイコパスやサディストと考えられがちですが、実際はそういった特徴は見られないことが研究で明らかになっています。

それ以外にもテロリストの特徴については、特段傾向があるわけではなく断定しずらいとのことです。

しかし強いて言えば影響されやすいこと、そして人との繋がりを大切にしていること、すなわち「共感力が高いこと」だと言います。

前者はまだしも、後者の「人と人との繋がりを大切にしている」は何となく直感に反すると私個人は思ってしまいました。

ではなぜ「共感力が高い」といった一見ポジティブな特徴とテロ行為が結びつくのでしょうか。

幼児は善を好む?

ここで兼ねてから話している「性善説」と「共感」に関する面白い研究を紹介します。

2007年のイエール大学の研究で生後6ヶ月の幼児も悪より善を好むことが分かりました。

やり方としては、親切な人形と意地悪な人形が出てくる人形劇を幼児にみせ、どちらの人形を欲しがるかを検証しました。

その結果、ほぼ全ての幼児が親切な人形を選んだといいます。

ここまではほっこりする話なのですが、2年後の追加実験で次のような事実が判明しました。

「乳児は、親切だが自分と好みが違う人形より、意地悪でも自分と同じ好みの人形を選ぶ」

つまりこの本のテーマであった「人間の本質は善である」ということよりも「自分と気が合うか(共感できるか)」が優先され得るということです。

赤ん坊を研究する心理学者ポールブルームは次のように述べています。

「わたしは共感を良いこととは思わない。共感は世界を照らす情け深い太陽ではない。それはスポットライトだ。共感は、あなたの人生に関わりのある特定の人や集団だけに光をあてる。そして、あなたは、その光に照らされた人や集団の感情を吸いとるのに忙しくなり、世界の他の部分が見えなくなる。」

「Humankind・下」 第10章 共感はいかにして人の目を塞ぐか より引用

1人の人間が共感できる人数には限度があるので、世界中にスポットライトを当てることはできないという悲しい側面が見えてきました。

Point
より良い世界は、より多くの共感から始まるわけではない。
選ばれた少数にスポットライトをあてることで、その他大勢は視野に入らなくなり、人々の寛大さは消失する。

偏見を防ぐ最善策

続いて取り上げるテーマはこちらです。

「他人への偏見を防ぐにはどうしたらいいか?」

前章では、誰かに共感することで他の人を敵と見なすという偏見が生じる可能性があると述べました。

共感に対する対策は最終章で取り上げるとして、では出来上がってしまった偏見にはどのように対処すればよいのでしょうか。

双子の兄弟の物語

偏見への対策の具体例として、南アフリカ共和国で起こった感動的なエピソードを紹介します。

南アフリカ共和国では、1948-1994年の間にアパルトヘイトという人種隔離政策が施行されていました。

ここでフォーカスが当たるのが、1人の英雄と双子の兄弟です。

ネルソン・マンデラ
若い頃から反アパルトヘイト運動に注力したため国家反逆罪で27年を刑務所で過ごす。
-1990年:釈放され反アパルトヘイト運動を再開。
-1993年:ノーベル平和賞を受賞。
-1994年:初の全人種普通選挙で大統領に就任。

コンスタンド・フィリューン
10代から軍隊に入り、南アフリカの国防軍の最高司令官にまで上り詰める。
アパルトヘイト賛成派

アブラハム・フィリューン
大学に進学しオランダとアメリカに留学。
留学中アパルトヘイトが犯罪システムであると気づき帰国後政治家に。
アパルトヘイト反対派

アパルトヘイトを巡る考え方の違いから、双子の兄弟は長らく疎遠となっていました。

しかしコンスタンドが軍部をまとめ上げ、大規模な政党(ほぼ軍隊)が出来上がると、危機感を覚えたアブラハムが行動に移ります。

「自分は南アフリカでただ一人、コンスタンドの心を変えることのできる人間だ」

アブラハムはマンデラと密かに協力し、コンスタンドに対して「マンデラとの会談」を提案します。

同様の提案を過去に9回断っていたコンスタンドですが、他ならぬ兄弟の頼みということで会談が実現することとなりました。

この歴史的な瞬間を回想したコンスタンドのコメントを引用します。

「マンデラは『お茶をいかがですか』と尋ねた。私が、はい、と言うと彼は私の前のカップに紅茶を注いだ。それから彼は、ミルクを入れますか、と尋ねた。私が、はい、と答えるとミルクを注いだ。それから、砂糖を入れますか、と尋ねた。私が、はい、と答えると、砂糖を入れた。私はただかき混ぜるだけだった。」

「Humankind・下」 第17章 憎しみ、不正、偏見を防ぐ最善策

穏やかな雰囲気の対話の中で、マンデラがコンスタンド一派が属する民族集団の歴史と文化を理解しようと努力してきたことを知り、感銘を受けたといいます。

そして何よりコンスタンドを驚かせたのは、マンデラがコンスタンドの母国語で話したことでした。

(※我々日本人には馴染みがないですが、南アフリカでは数十に及ぶ民族が存在し、公用語は脅威の11種類あるといいます。話が全く通じないと困るので、皆が英語を話せるそうですが、その場その場の人に合わせて母国語と使い分けているとのことです。)

日本人からは考えられないスケールで多様性のある文化ということで、マンデラがコンスタンドの民族を理解し、その母国語で話したというのは衝撃的なイベントだったのではないでしょうか。

この会談を機に、両者は和解。翌年にはアパルトヘイトの撤廃が実現しました。

偏見を防ぐには?

「他人への偏見を防ぐにはどうしたらいいか?」

というテーマに話を戻します。

南アフリカ共和国での例にあるように、答えは「交流すること」です。

そんな事かと思われるかもしれませんが、私たちはそのパワーを甘く見ているとのことです。

科学的な補足をすると、米国の民族・人種系社会心理学者であるトーマス・ペティグリューが2006年に発表したメタ分析(複数の研究結果を分析した結果)では次のことが分かりました。

  • 交流は、より多くの信頼/連帯/思いやりを生み出す。
  • 交流は、個人が他者の目を通して世界を見ることを助ける。
  • 交流を通じて、知らない人に対してより寛容になれる。
  • 交流は伝染し、隣人が他の人と仲良くしているのを見れば、自分の偏見を考え直すことができる。

また武力による威圧よりも「言葉による交流」が有効であることも分かっています。

米国の政治学者であるエリカ・チェノウェスが2014年に発表した研究では、次のことが明らかとなりました。

暴力的な抵抗運動の成功率:26

非暴力の運動の成功率:50%以上

人生の指針となる3つのルール

最後は「Humankind 希望の歴史 上下」のまとめです。

ここまでの内容を踏まえて、本書のサブサブタイトルにもあるように、善き未来をつくるために私たちができることを3つご紹介します。

  • 共感を抑え思いやりを大切にすること
  • ニュースを避けること
  • 他人を信じて交流すること

共感を抑える

最初の章で述べたように、一見良いものに見える共感は「自分達とその他」という線引きを誘発しがちです。

なのでここでは共感ではなく「相手を思いやること」が勧められています。

何が違うのか?という問いにはざっくりと次のような回答となります。

共感:相手の立場に立って同じ感情を共有すること

思いやり:相手を気遣い助けるために行動すること

具体的な例でいくと、暗闇で子供が怯えているときに

共感:子供と一緒に部屋の隅に座り、声を声をひそめて話すこと。

思いやり:子供を落ち着かせ、なだめること。

といった感じです。

ニュースを避ける

こちらは上巻で詳しく述べましたが、私たちが日々消費しているニュースは人が他人や世界を悲観的に見るように誘導する効果がありました。

本書では著者が実践しているルールが記述されていたので引用します。

テレビとプッシュ通知を遠ざけ、オンラインでもオフラインでも、もっと繊細な新聞の日曜版や、もっと掘り下げた著述を読む。スクリーンから離れて人々と直に会う。

「Humankind 下」エピローグ 人生の指針とすべき10のルール より引用

今ではLINEのメニューに「ニュースタブ」がありますし、トーク一覧の上部にさえニュースが表示される時代なので、全てを避けることはなかなか骨が折れますが、テレビや通知といった大きなところから避けていくことが大切なのかなと思います。

人を信じて交流する

上巻で下記の2点を学びました。

  • 人は狩猟最終時代の生存戦略から悪いことに敏感であること
  • メディアがその性質を利用してきついニュースばかり流すこと

このような背景から人は他人を疑いがちですが、本書全体で見てきたように、人間の本質は善なので、相手を信じて交流すべきです。

それでも運悪く騙されてしまった場合はどのように考えれば良いのでしょうか?

このことに対して心理学者マリア・コンニコワの素敵な一節を引用し締めくくりたいと思います。

時々騙されるという事実は、他人を信じるという人生の贅沢を味わうための小さな代償である

「Humankind 下」 エピローグ 人生の指針とすべき10のルール より引用

感想

人生で読んだ本Best3に入るであろう、衝撃的で尚かつとても楽しめた本でした。

読んだ方は同じ感想を持つと思いますが、著者であるルトガー・ブレグマンさんの思考の深さというか、物事を正しく検証する力に驚かされます。

この人の頭の中はどうなっているんだという天才性を感じさせる一方で、「私も当初は誤解していた」や「TwitterやYoutubeに気を取られて瞑想が上手くいっていない」といった弱みも描かれており、どこか親しみやすさを覚えた気になるところも魅力の一つかと思います。

上巻下巻合わせて500ページ上あるので、今回はほんの一部しか紹介できていませんが、圧倒的に面白く、ボリュームに反して退屈せずに読めると思いますので興味をお持ちの方は是非ご一読ください!

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