しあわせ仮説

おすすめ本

毎年3月20日の「国際幸福デー」に世界幸福度ランキングが発表されています。

このランキングは以下の6つが評価基準です。

  1. 一人当たり国内総生産(GDP)
  2. 社会保障制度などの社会的支援
  3. 健康寿命
  4. 人生の自由度
  5. 他者への寛容さ
  6. 国への信頼度

2021年のランキングでは日本は149ヶ国中56位と言う結果でした。

56位と言うと悪くない気がするかもしれませんが、G7の中では次点のイタリア(28位)に差をつけて最下位です。

日本の一人当たりGDPが低くないことや、健康寿命が世界1位であることを踏まえると、もう少し上位に食い込みたいところかもしれません。


今回は、幸福度を高めるにはどうしたらいいのか?という疑問を解消してくれる本をご紹介します。

アメリカの心理学者であるジョナサン・ハイトさんが書かれたしあわせ仮説では、幸福はどのように生まれると考えられてきて、具体的に何が達成できれば幸福になれるのかが示されています。

今回は、本著の中から幸福の考え方の東洋と西洋での違いと、著者の考えるしあわせな状態について取り上げたのち、しあわせな状態になるためには具体的にどうすればいいのかについて解説していきます。

しあわせになる方法は?

しあわせになるための方法は、長年多くの知識人によって探究されてきましたが、ここでは初めに西洋と東洋における考え方の違いについて取り上げたいと思います。

① 西洋の努力と個人主義

西洋では、外的な財を求めて努力することや、自分の望むように世界を合致させることで、しあわせになれるという考え方が支持されていました。

例えば、一流と言われる大学に合格することや、会社で昇進することと言った目標を達成すること、そしてその目標の達成のために勤勉に努力や学習することが当てはまります。

働きづめて稼ぎを増やし、マイホームを購入したり、ブランド品を買ったりと贅沢な暮らしを手に入れることもこの考え方に含まれます。

② 東洋の受容と集団主義

対照的に東洋では、物事に対する執着を捨てることでしあわせになれる、と言う考え方が広く受け入れられてきました。

西洋で重視されていた、外的な財を求めて努力していくことには終わりがない(贅沢には慣れてしまう)ということが認知されるようになり、執着を捨てるという考え方が広まったといいます。

よくある例で言うと、宝くじの当選者は自身の生活水準を著しく上げてしまうため、高額の当選金であってもすぐに使い切ってしまうことが挙げられます。

また人間は老いや死からは逃れることができず、努力したからといって全てが思い通りになる訳ではないという苦しみを常に抱えています。

このように自分でコントロールできないことは考えないようにして、自分でコントロールできる唯一のこと、現状に感謝すると言う受容の精神といった心の持ちようにフォーカスしたのが東洋思想です。

西洋と東洋どちらが正しいのか?

では、しあわせになるにためには、西洋思想と東洋思想のどちらを手本とすればよいのでしょうか?

昨今でも資本主義のもと、経済的な成功を手にするために勤勉に努力する人もいれば、勤務時間をなるべく抑え、ある意味で身の丈に合った生活を尊重する人もいるなど諸説あると思います。

そんな中で著者は(悪く言えばありきたりですが)、どちらか一方からのみしあわせを得られるわけではなく、バランスが大切だと主張しています。

ただ、ここで注目なのが、東洋思想と西洋思想のそれぞれからしあわせを得られるわけではなく、しあわせは2つが上手く組み合わさることによって生じると述べている点です。

その2つの何が違うんだと思うと思いますが、それは次章で取り上げるとして、東洋思想と西洋思想のどちらか一方では不十分だと著者が主張している理由について軽く触れたいと思います。

どちらか一方の思想では不十分な理由

まず第一に、東洋思想だけでは不十分としている理由として「人間関係」が挙げられます。

人間関係は、個人の心の持ちようではなく外的な条件ですが、良好な人間関係は恒久的なしあわせをもたらすことが明らかになっています。

次に、西洋思想だけでは不十分としている理由は、上述の通り、人は外から得られた財や地位にすぐに慣れてしまい、それらからは恒久的なしあわせが得られないことが明らかとなっているためです。

ではこの2つが組み合わさるとはどのような状況を指すのでしょうか?次章で掘り下げていきます。

しあわせに必要なモノ

著者はしあわせに必要なものとして「愛」「フロー体験」を上げています。そしてこれらが上手く融合した「コヒーレントな状態」からしあわせは生じると述べています。

用語が増えて、話が難しくなってきましたが1つずつ整理していきましょう。

用語整理

「愛」:人間同士の結びつきを含む広い意味での愛情のこと。
「フロー体験」: 少し挑戦的な課題に取り組んで、完全に没頭していること。

コヒーレントとは?

コヒーレントとは"一緒にまとまること"を意味しており、思想や世界観が一貫した状態で適合している状態のことを言います。

まだ分かりにくいですが、本著の中でのコヒーレントとは心理層(物事の意味が理解できている状態)、物理層(その物事を持続的に行う状態)、社会文化層(それを正しいと信じる社会的な考え方が根付いている状態)が一貫していことを指しています。

(例)宗教におけるコヒーレント

具体例を見ていきましょう。

本著の中ではヒンズー教の例が紹介されています。

心理層

ヒンズー教徒では、神に祈りを捧げる前に沐浴(体を水で洗い清めること)をしたり、寺院へ向かう途中に犬や、生理中の女性に触れてはいけないことになっているようです。

これをただ知っているだけ(心理層)の場合、実際に犬に触れた時によくないと感じる事は無いでしょうし、よくないのがどんな気分なのかもピンとこないと思います。

しかし、あなたがインドでヒンズー教徒として育ったと考えてみてください。

物理層

毎日の生活で、人の純潔レベルの変動に常に目を配っておかなければ、人に触れたり人から何かものを受け取ったりできない。宗教的奉納の前には必ず、短時間水浴びしたり、聖水に少し浸ったりして、1日に何度も沐浴をしなければならない。

これらを20年も実践すると、ヒンズー教の儀式に対する理解は直感的なものになり、心理層での理解は身体的な具体性(物理層)を持つはずです。そして、概念的な心理層と直感的な物理層が結合した時、その儀式は正しいものと感じられるといいます。

最後にこれらの心理層と物理層の結合は、社会文化層にも広がります。

社会文化層

あなたは4000年も続く宗教的伝統の中にどっぷりつかっていて、あなたが子供の時に聞いた物語の多くはその宗教的伝統がもたらしたものです。

このような歴史と伝統のあるヒンズーの教義は、様々な職業の純潔と汚れを基礎としたカースト制度を通じてあなたの社会を構成します。ヒンズー教と言う大きな文化の中で、全てが道理にかなったものになり、神に奉納する時に「これに一体何の意味があるのか?なぜ私はこんなことをしているのか?」などとは考えなくなります。

対象的に、自分とは異なる宗教を持つ友人の結婚式に出席している最中、知らない人達と手を取り合って合唱するように求められた場合などでは、儀式の意味は理解できても、それを行っている間、馬鹿げているとさえ思うかもしれません。

これは心理層だけがあって、物理層や社会文化層と結びついていないからです。

コヒーレントの作り方

ではどうしたら心理層、物理層、社会文化層の3層間のコヒーレントが実現できるのでしょうか?

本著では、下記のように、みんながその物事を良いと信じるコミュニティの下で、愛情(人間関係の構築)とフロー関係を通じて、時間をかけて形成されていくと述べられています。

(例)趣味でコヒーレントが出来上がる過程

本著では例として、乗馬が好きな女の子の話が取り上げられています。

キャサリンは静かだったが、一度だけ、馬に興味があると話したことがあった。私はキャサリンに、どうして彼女が乗馬に関心を持ったのかを話すように頼んだ。彼女は子供時代に動物が好きで、特に馬に興味があったと述べた。
10歳の時、両親に乗馬のレッスンを受けさせてくれるよう懇願して同意を得た。最初は楽しみのために乗馬をしていたが、すぐに競技乗馬を始めた。大学を選択する時期になって、バージニア大学を選択した1つの理由は、優秀な乗馬チームがあるからだった。
私はさらに突っ込んで、特別な馬の名前を私たちに教えてくれないかと尋ねた。彼女は微笑み、まるで秘密を認めるかのように話始めた。
馬に乗り始めた頃に馬についての本を読み始めたこと、馬の歴史や歴史上有名な馬について詳しいこと。乗馬を通じて友人を作ったかどうか尋ねると、彼女は親しい友達のほとんどは、馬のショーや乗馬を通じて知り合った「馬友達」であると話してくれた。
彼女は話すうちにどんどん精力的になり、自信に溢れてきた。彼女の最初の興味は、どんどん深いものへと育ち、活動や伝統やコミュニティーに彼女を結びつける蜘蛛の巣は、どんどん厚くなっていった。キャサリンにとって乗馬は、フローや喜び、アイデンティティー、効力感、関係性の源泉となっていった。それは彼女にとって、人生における目的と言う問いに対する答えの一部であった。

しあわせ仮説 第10章 幸福は「あいだ」から訪れる より引用

この例では、図で言うところの興味や人間関係である「愛」について具体的に言及されており、興味が育ってさまざまな知識を身につけていく過程や、馬のコミュニティの中で人間関係や、伝統が育っていく過程が示されています。

フロー体験の作り方

では「フロー体験」を行うにはどうすればいいのでしょうか?

その答えは、適切なレベルの目標設定であると言えます。

2章の最初に「フロー体験」は、その人の能力にほぼ適しているが、少し挑戦的な課題に取り組んで、完全に没頭している状態のことと言いました。

この”少し挑戦的な”と言う部分を満たすために、自分の現在の能力を踏まえて、簡単すぎずかつ実現可能な難易度の目標を設定する必要があります。

スポーツであれば打率やスコアなどの目標が、具体的で計測もしやすく難易度設定もやりやすいと思います。

日々の仕事であれば、期限を設けて何時までにこの資料を作り終えるといった目標を立てるのもいいかもしれません。

まとめ

長くなりました。話を戻すと、、

Point1

このコヒーレントな状況の中には、西洋思想(外的な人間関係にしあわせを求める姿勢や目標達成のために努力する姿勢)と東洋思想(人間関係における他者への受容の精神やコミュニティ形成における集団主義)があり

Point2

これらが独立しているではなく、融合している(=3層間のコヒーレントができている)ことが重要であると言う意味で"しあわせは西洋思想と東洋思想が上手く組み合わさることによって生じる"と言う主張に辿り着いています。

すなわち、あなた自身の目標を追求することと、他者と適合していくことが必要である、とまとめることができます。

おわりに

最近の本は「個人として何ができるか」に焦点が当たってるものが多いように感じていましたが、本著では「個人ではどうしようもない社会文化的な要素」も幸福には不可欠と主張している点で新鮮でした。

社会文化に関しては、多様性の促進や、核家族化や都市化などによって、コミュニティで共有したい伝統や価値観のが揺らぎつつあるように思えますし、それを共有するコミュニティも同じ理由から衰退しているように思えます。

そんな中で3層間コヒーレントを実現するには、乗馬の話のように、趣味に対してフロー体験を経て、良好な人間関係があるコミュニティを意識的に形成していくこと、そのフロー体験のために適切な目標設定をすることが必要なんだなと学べました。

本著は最近の、結論ファースト! 要点箇条書き整理!と言ったビジネス書によくある構成ではなく、考え方の変遷をたどり、その道中にも思いを巡らせていく流れであるため、読むのに少し体力が入りますが、たまにこういう読書をするのも思考力が鍛えられていいなと思いました。

気になった方は、是非お手にとって読んでみてください!

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