なぜ、日本の職場は世界一ギスギスしているのか

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ISSP(国際比較調査プログラム)は毎年、「政府の役割」「社会的不平等」「家庭と男女の役割」などの多岐に渡るテーマで、世界共通の世論調査を実施してきました。

その2015年のレポートによると、「自身の職場の同僚間の関係は良好である」と回答した人の割合は、調査対象の37カ国中、日本がダントツの最下位となりました。

なぜこれほどまでに日本の職場はギスギスしてしまっているのでしょうか?

その要因を分析し、職場のギスギスに対する回答を示してくれるのが、350以上の企業・自治体・官公庁で職場のコミュニケーションと組織風土の問題に取り組んできた、経営者かつ組織開発専門家の沢渡あまねさんの書かれた「なぜ、日本の職場は世界一ギスギスしているのか」です。

著者曰く、日本の職場がギスギスしている背景は、決定的な唯一の要因があるわけではなく、幾つもの要素が絡み合った結果だとしています。

今回はその中から、個人的になるほどと思ったコンテンツを、5つほどピックアップしてご紹介していきたいと思います。

環境によるギスギス

まずは職場の「環境」に関するギスギスを3つ取り上げたいと思います。

共通的は部分としては、旧態依然のマネジメント方式や働き方、ジェネレーションギャップが挙げられますが、それぞれ具体的に見ていきましょう。

1. 誰に何を聞けばいいか分からない

社員それぞれの業務範囲が曖昧で、部分的に属人化されているため、誰に何を聞けばいいのか分からずギスギス。

1.1. 業務の範囲が曖昧

  • 各部署がどんな業務を行い
  • 一人一人が何をどこまで担当し
  • その人の能力は定量的にどれくらいか

といった部分が曖昧な職場環境だと、

  • 誰に何の判断を仰いだらいいのか
  • 誰に何をどこまで任せていいのか
  • 自分はどこまで任されていいのか

がはっきりせず、ギスギスした職場になることが指摘されています。

日本の多くの企業では、人ごとに業務範囲を明確に決めるのではなく、10人いたら10人が時間いっぱい働くスタイルが主流なため、上記のような線引きが曖昧になりがちです。

1.2. 過剰な属人化

「XXについてはAさんしか分からない」といった属人化も、曖昧な業務範囲の中で職場のギスギスを促進してしまいます。

本来は専門性の極めて高い仕事でない限り、なるべく標準化し、誰でも理解し行えるようにするのが理想的です。

一方で、日本の職場では「Aさんしか分からない」という状態が許容されがちで、かつAさんもそこに自分の存在価値を見出しているという悪循環が生じがちであると言います。

意図的に属人化を進めるようでは、返って業務を複雑にしていることになり、Aさんが休むと仕事が滞る面も考えると、職場の雰囲気のギスギスにつながるのは納得かなと感じます。

1.3. 対策

誰に何を聞いたら良いか分からないギスギスへの対策は、自分の部署は何をする部署なのかを明確にし、現在手掛けている業務すべてを一覧表に書き出すなど、業務の整理整頓を行うことから始まると著者は述べています。

合わせて、整理した業務に対して、誰がどのレベルでできるのかといった、能力の整理も行うことが推奨されています。

ここまで整理できれば、属人化されていた仕事が明確になり、どの業務を標準化すればいいかや、どの人をどの業務に割り当てれば良いか決めることができるので、誰に何を聞けばいいか分からないといった状況はある程度、解消されるのではないでしょうか。

2. 社内の不公平と職種の不公平

社内でルールが統一されてしまい、業種間で働き方のミスマッチが起き、苦しむことでギスギス。

2.1. 出社とテレワークの不公平

テレワークの導入による、職場の感染症対策が推奨されて久しいですが、医療従事者や工場の現場勤務など、現状だと出社が必須な職種もまだまだ存在します。

そんな時に「工場の現場勤務が出社しているのだから、不公平にならないように事務や営業、開発メンバも毎日出社しろ」といった指示が出される会社も、一定数存在するといいます。

このみんなで仲良く苦しむ風潮は、組織としてはマイナス面が大きいと著者は警鐘を鳴らしています。

例えば営業職の人は、わざわざ通勤時間をかけて出社するよりも、自宅から直接客先に行ったり、客先のスタイルに合わせて、自宅からオンラインでやり取りをした方が、生産的であることが多いです。

このように社内の奇妙な公平感を求めるあまり、業種ごとの最適解が蔑ろにされてしまい、思うような働き方ができないことによるギスギスは避けたいところです。

そのためには、社内の不公平感(社内みんなが同じ行動をする)よりも、職種の不公平感の方が問題であるということを認識しなくてはなりません。

3. テレワークの生産性

テレワークで行いづらい、無駄な業務が見直されずギスギス。

3.1. 生産性が下がったのはテレワークのせい?

2章に関連して、テレワークがスムーズに行えるかどうかも職場のギスギスに影響してきます。

2021年3月、内閣官房成長戦略会議事務局および経済産業省経済産業政策局が「コロナ禍の経済への影響に関する基礎データ」を発表しました。

ここでは、アメリカでテレワークによって生産性が上がったと回答している人が41.2%、生産性が下がったと回答している人が15.3%となっている一方で、日本では生産性が低下したと回答した人が82%に達するという衝撃の結果が明らかとなりました。

このような差が出た原因を著者は、日本の典型的な「同じような人が同じ場所に集まって阿吽の呼吸で仕事をする」やり方のまま、テレワークに移行してしまったからだと言います。

例えば、今まで同じオフィスの近くの席に全員集合していた状態から、急にオンラインに移行してもコミュニケーションがうまくいかないのは言うまでもないと思います。

またテレワークに向けて、事務等の手作業をITツールに置き換えた場合を考えてみましょう。

事務手作業の中にあった無駄な作業(デジタル化できていない重要書類、物理的なハンコ)を削減しないまま置き換えてしまっては、返ってツールの操作が複雑になり、不慣れなITツールということも合わさると、生産性の伸びを実感できないのは当然かもしれません。

このようなテレワーク以前の問題が、テレワークの中でより明白になることで、職場はよりギスギスしてしまうと言うことになります。

3.2. 対策

テレワークには通勤時間からの解放や印刷、会議室手配の手間からの解放と、メリットも多く存在しています。

これらのメリットを活かして、テレワークの生産性を上げるために、まずはテレワーク以前の仕事のやり方に無駄や削減の余地がないかを洗い出すことが推奨されています。

そしてテレワークで生産性を出すためのスキルやマインドを、新たに学び、身につけていく必要があると言います。

本著では、テレワークで成果を出すためのスキルとマインド一覧が、8つのカテゴリーに分かれ、事細かに列挙されています。

少し例を挙げると、オンライン会議ツールやチャットツールを使いこなしたり、突発的なトラブル/プライベートの混在に寛容になるといった「ITスキル/リテラシー」や、オンラインでも自己開示でき、自分の役割と相手への期待を明確にできる「チームビルディング」が取り上げられています。

スキルによるギスギス

次に、職場の「スキル」に関するギスギスを2つ取り上げたいと思います。

こちらも「環境」によるギスギスと同様に、共通的は部分としては、旧態依然のマネジメント方式や働き方、ジェネレーションギャップが挙げられます。

4. 多すぎる雑務

雑務が多く、自身のスキルの伸びを実感できなくてギスギス。

4.1. 雑務が多くてスキルが伸びない

日本の若手社員は、世界全体で見たときに、比較的管理職になりたくないと考えており、仕事において苦労もしたくないと感じていることが、「APACの就業実態・成長意識調査」で明らかとなりました。

若手社員の働く目的は、楽しい生活を送りたいからであり、会社を選択する理由も、能力や個性を活かせるからとなっています。

日本企業の特徴として、外注が少なく何でも自分たちでやろうとしがちであることが挙げられます。

例えば、ITエンジニアなのに会議運営や報告書の作成に半日とられる。マネージャーなのに職場の全てのUSBメモリの型番と用途を調べさせられるなど。

本業の成果とは関係のないところで時間を食われており、このような雑務で苦労することも評価につながることさえあります。

このように、やりたくないことをやらされるので、若手社員が苦労したくないと考えるのも至極真っ当なのかもしれません。

4.2. 対策

対策に関しては「事務作業や間接業務」を撲滅するしかないのですが、著者は削減の余地がある仕事の代表例として下記のようなものを挙げています。

  • 事務作業
  • 対面の会議
  • 報告業務
  • スケジュール調整

個人的にはこれらをいきなり削減できるとは、なかなか思えませんが、報告書をテンプレ化して使い回すことで資料作成の時間を減らしたり、管理資料から無駄な列・項目をなくして、管理にかける時間を減らしたり等のスモールスタートの余地はあるのかなと思います。

また著者が『「仕事に雑用はない」としても、「やらなくてもいい仕事」があるのは事実です。意味のない仕事をいくら上手にやっても、それは何の価値もないのです。』と述べているように、まずは自分の業務時間のうち、どれくらい雑務に割かれているのかを書き起こし見てるところから始めてもいいかもしれません。

5. 日本特有の採用問題

入社する側、受け入れる側、双方の形式のずれでギスギス。

5.1. 採用のミスマッチ

日本特有の採用のミスマッチが起こる原因として、ここでは3つの要因が指摘されています。

  • 新卒一括採用形式で、新入社員をじっくり見極めることができていない
  • 採用後に配属決定するため、何をさせられるかわからないまま入社する
  • 配属が決まっていないので、就業規則や就業環境が入社前にわからない

どれも皆さん身に覚えのある内容かと思います。

このような状況では、入社する側の「配属されてみたら思っていた業務ができなかった」「相性の悪い上司に当たってしまった」というギスギスや、受け入れる側の「うちの組織文化とは合わない人が来てしまった」と言うギスギスが発生してしまいます。

またその背景には、日本企業特有のジョブローテーションの考え方があると言います。

数年単位でジョブローテーションを行い、10年20年単位で、何でもできる人材を育てると言うもので、その中で多少の我慢(やりたくない仕事をやらされる)があるのは仕方がないと言う風潮です。

このことに関連して、1990年ごろに東大生の就職先ランキング上位を占めていたのは、上記の風潮が根強い官公庁や銀行系でしたが、最近の東大生に人気が高い職種として、コンサルが台頭してきているそうです。

コンサル業では、若いうちから企業の経営陣や経営企画室の人たちを相手に経験を積むことができ、スキル伸ばせることが魅力となっているとのことです。

確かに4章での雑務の話も相まって、終身雇用じゃないのであれば、意味のない仕事に時間を食われるよりも、自分のスキルを伸ばして市場価値を高めようと考えるのは納得です。

5.2. 対策

採用のミスマッチを減らすには、入社する側である個人と、受け入れる側である企業、それぞれに対策があります。

個人の対策としては、就活中の情報収集のルートを複数持つことが有効であると、パーソル研究所が発表している「就職活動と入社後の実態に関する定量調査」で示されています。

個人的にも、就活中のネットでの情報は極めて混沌としている実感があり、OBやOG、同じ企業を受けている友人からの情報など、複数の情報を収集することが有用だったのは非常に共感できます。

一方で、企業の対策としては、職種別採用を行い、職務内容や期待する役割を明確にすることなどが提案されています。

実際に会社員をやっている身からすると、日本の新卒一括採用のような、専門性を持たない学生を採用するような状況で、職種別採用がうまく機能するかはやや疑問ですが、それでも配属部署などが明確になっている採用形態の方が、入社する側からは安心なのは納得です。

おわりに

「職場の人間関係が良好と答えている日本人ってこんなに少ないのか!」と驚いたことから、本著に引き込まれていきましたが、原因として日本の伝統のようなものが存在していることを突きつけられ、項垂れる気持ちにもなりました。

ただ著者が主張しているように、大きく根深い問題であっても、個人レベルで行動していかないと、いつまで経っても事態は改善されないと言うのも事実なので、自分にできることに向き合っていく姿勢は大切なんだなと再確認しました。

本著は今回紹介した以上に豊富な、合計20のギスギス原因とその対策について、分かりやすくコンパクトにまとめられています。

ご興味をお持ちの方がいましたら、是非本著を手に取って読んでみてください!

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