「男子劣化社会」

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 ゲーム中毒、引きこもり、ニート・・・今や記録的な数の男たちが、社会から外されている。学業では女子にかなわず、女性との付き合いや性関係でしくじり、正規の職に就くことができない。世界的な不況や、社会構造の変化、そしてネットの普及が、彼らをより窮地に追い込み、ゲームやネットポルノの中に縛り付けている。本書は、行動心理学、社会学、生理学の成果などを駆使しながら、今若者たち、特に男性にどんな変化が起きているのかを検証。さらにその原因を解明していく。社会の変化によって「男らしさ」や「男の役割」も変更を迫られている。先進国共通の男子の問題に、解決策はあるのか?

ー本著カバーより引用

 今回はスタンフォード大学心理学名誉教授のフィリップ・ジンバルドーさんとニキータ・クーロンさんが書かれた「男子劣化社会」を読み、耳が痛いなと思うと同時に、面白いと感じたのでご紹介します。

 冒頭で引用したカバーにあるように、現代では「引きこもり」といった“社会からドロップアウトする若い男性”の増加が問題視されています。著者は、この原因が主にゲームとポルノにあり、かつそれは現代社会のあり方によってもたらされていると指摘しています。そんな状況に対して、症状を整理し、原因を細かく分析するとともに、解決策を提示することが本著の目的です。
 大半の人は自分が「ニート」や「引きこもり」ではないので、他人事のように思えてしまうかもしれせんが(私もかなりそう思っていました)、そういった人々が苦しむ社会的な原因というものは、我々にも影響のあることで、知識として知っておく必要があると感じさせられます。このことに関して、印象的なインタビューが本著の中で記載されているので引用します。

 私は自分の人生にある何らかの問題のせいでゲームやポルノを使用した事は1度もない。単にそれらにアクセスがあり、楽しかったからしたのだ。成長の過程ではいつも恋人がいたし、子供時代に心に傷が残るような経験もなければ、いちどたりとも虐待をされていないし、家族に依存症の人間もいない。私はただ超常的な刺激に無限のアクセスがあった、いわゆる「現代の中毒者」だ。何年にもわたり慢性的な過剰消費のせいでやみつきになり、感覚が麻痺してしまっただけだ。私は「人生の辛さを和らげる」ためにある行動や薬物に走った「典型的な依存症患者」ではない。むしろ「人生の喜びを体験する」ために、ある行動やものに頼ったのだ。
 ポルノやゲームの虜になる男はみんな、人生に何らかの問題を抱えていて、それから逃げようとしてやっているか、またはそれで癒されそうとしていると言う話をよく耳にする。これは私には当てはまらないし、大量のポルノを見て何時間もゲームをする、私の知っている他の多くの男たちにもたまらない。私のケースでは、「問題」はゲームやポルノの後にやってきた。

本著p126-127より引用

 このように、ゲームやポルノに依存しすぎることで、個人に悪い影響が生じる可能性は、皆が潜在的に秘めているということになります。また、このゲームやポルノの依存の原因の多くが社会的な要因である以上は、今後もますます依存を促進する社会の流れに飲み込まれうるということなので、そんな時代に私たちは何をすればいいのかということを紹介したいと思います。 

1. 症状

 ここではまず、現代社会の若い男子に起こっていることの傾向について挙げたいと思います。

結論
近年のより一層複雑化した世界で、若い男が安全地帯としてゲームやポルノに依存し、それが(自分の行いに責任を取り、他の人々と力を合わせて地域社会や国全体をよりよくする誠実かつ行動的な市民であるといった)社会性を奪っている。 

① 何かについて表層的な知識しかなのに、全てを知っていると思い込む傾向

 デジタル技術の発達により、PCやスマホを利用して、記憶のアウトソーシングをすること(知りたいことをすぐにGoogle検索できる等)が簡単にできるようになりました。このことは非常に便利で生活を豊かにしてくれる一方で、人々から「物事を深く考えたり注意力を維持する能力」を奪いつつあることが問題視されています。
 具体例を挙げると、ニュースを見ても中身を熟読せず、見出しだけを見て終わってしまう人が多いことが指摘されていました。

 ここで指摘されているのは、「知っている」という勘違いが生まれてしまう点です。実際にそれについて説明を求められると困ってしまうのが現状で、これは若い男性に広く浸透している「トライする前にギブアップする」という態度の縮図であると指摘されています。

② シャイな人の増加

 インターネットの普及によって、交渉・会話・仕草や表情の読み取りといった、対人スキルを育てる場が減少してきました。このことから、現代ではシャイな人が増えていると言われています。”コミュ障”という言葉が広く浸透しているので、馴染み深いと思います。ここで注目なのは、今までのシャイと現代のシャイでは、意味合いが異なるという点です。

 旧シャイ:人との接触を欲しながらも、悪い印象を与え拒絶されることを恐れる。

 新シャイ:人との交流の仕方がわからないため、人との接触を嫌うようになり、益々人との交流の仕方がわからなくなり、益々他人を遠ざける。

 新シャイでは負のフィードバックによって、益々人との交流がなくなっていくと、人々は失敗することを恐れるようになる傾向があります。その結果、多くの若い男たちが、失敗のない安全な場所にひきこもることを選んでいると指摘されています。それは、自分で結末をコントロールでき、拒絶される恐れもない、自分の能力を賞賛される場所であり、ゲームとポルノはそんな安全地帯だと筆者は主張しています。

私は定期的にゲームをし、ポルノを見ます。(中略)平均的ルックスの私は、異性に気に入られるために努力しなくてはならないと言う現実の面倒な側面に常にうんざりしていました。金はかかるし、相手の気持ちはわからないし、たいていは失敗に終わります。これまでに知り合った女性との個人的関係は全て私にとっては無意味で、男の友達で簡単に置き換えられ、怒りの部分はポルノが満たしてくれると感じています。

本著p37より引用

2. 原因

 ここでは前述した症状に対して、その原因が何なのかということを「個人の気質」「状況的要因」「環境的な仕組み」の3つの観点から分析しています。著者は、以下の8つの原因を挙げていますが、ここでは「テクノロジーと魔法と興奮依存症」「父親不在の家族」の2つについてご紹介します。

【男子劣化社会の原因】
1. テクノロジーの魔法と興奮依存症
2. 父親不在の家族
3. 問題だらけの学校
4. 生化学的な環境の変化
5. 膨れ上がる自己愛
6. 女性の隆盛?
7. 家父長制神話
8. 経済の停滞

① テクノロジーの魔法と興奮依存症

 この原因が著者が最もボリュームを割いている要因でした。その中でも特に強調されている点としては、ゲームの爆発的な普及が挙げられます。Nintendo Switchが記録的な売り上げを叩き出したことは記憶に新しいですが、それ以外にもスマホゲーム市場の急成長などが相まって、ゲームは時間や場所に縛られず、誰でも楽しめるものとして浸透しています。ゲーム自体は素晴らしいものですが、以下のような問題点も存在しています。

#1 ゲームの数が増えただけではなく、長時間プレイを強いる構造が組み込まれている

 RPG系のゲームであっても、やり込み要素が豊富に用意されていたり、FPSのような自身のスキルを追求するようなゲームも人気のトップを占めており、現代人はゲームのプレイ時間が非常に長くなっていることが指摘されていました。著者は"1日に一人で4時間以上ゲームをするのは「過度」"だと述べています。長時間のゲームプレイは時間を奪い、睡眠不足を招いたり、その他のスキルが育たない問題を引き起こします。またこのゲームを長時間プレイする傾向は、男性でより顕著で、アメリカ人の男性が週平均13時間ゲームをするのに対して、女性の場合は週平均5時間という調査結果が上がっています。また子供への影響として、ゲームをする子はしない子と比較して、読書時間が約30%、宿題に取り組む時間が約34%少ないことが明らかにされています。

 これに関しては私もゲーム好きなので耳が痛いです。社会人になってからはあまりしていませんが、学生時代などは休日に4時間以上ゲームするのはザラでした。また18歳以上のゲームをプレイする人の傾向を調べた「Limelight NETWORKS」の2020年の調査では、日本人は「週に1時間未満しかゲームをしないカジュアルゲーマーと20時間以上プレイするヘビーゲーマーの比率が共に世界で最も高い。元々2極化しているが、今年は1時間未満と20時間以上の比率が増加し、その傾向がさらに強まりました。しかし一方で週1-4時間のゲーマーが減少して7-12時間が増加するなど、2極化が続きながらも全体が長時間へシフトしています。」といった、二極化と全体的なプレイ時間の増加のトレンドが明らかにされています。

引用:オンラインゲームの状況に関する調査 – 2020年 | ライムライト(https://www.limelightnetworks.jp/resource/case-study-online-game-2020/

#2 バーチャル世界の魅力

 またここでは、現実世界と比較したバーチャル世界の魅力が挙げられています。

 現代は、社会環境の急激な変化といった非常に複雑化した社会になっていますが、ゲームの中のバーチャル世界では、ある程度物事が「予想通り」に起こります。さらに、現実では重労働や教育・人脈なしでは手に入らないような、ルックス・人望・富・地位などが、ゲームだと楽に手に入ります。これも複雑な現実社会に対して、バーチャル世界が自分の「思い通り」であるという魅力につながっています。著者は現代の若者の間で「現実世界」と「バーチャル世界」の区別が曖昧になってきていることに警鐘を鳴らしています。

② 父親不在の家族

 ここでは現代の核家族化の進行や、離婚率の増加などに起因して、少年たちに「ネットで繋がれる相手」以上の、相談できたり、援助をしてくれたり、褒めてくれる相手がいなくなってしまっていることが原因として挙げられています。

#1 核家族化

 厚生労働省が2018年に発表した「2017年国民生活基礎調査」では、18歳未満の児童がいる世帯のうち、核家族世帯は82.7%を占めていることが報告されました。また、全世帯中の単身世帯の割合が増加を続けています。2000年には25%だった単身世帯の割合は、2015年には約35%になり、2040年には40%を超える見込みとされています。著者は、『子供の共感力を育てる』(著・M.サラヴィッツ,B.D.ペリー/紀伊國屋書店)を引用し、縮小し続ける家族において、食卓を皆で囲むと言った質の高い時間が減少し、この希薄化し続ける人間関係が、今の社会の他者に対する寛容と優しさが欠如している遠因になっていると指摘しています。

#2 ロールモデルになる人は誰?

 離婚率の増加により、少年が目指すべきロールモデルとしての父親像がなくなっていることが、問題視されています。現代の日本の離婚率は35%程度と言われていますが、離婚による影響は、父親というロールモデルを失うだけにとどまらず、シングルマザーの過酷な状況が子供に悪影響をもたらすことも懸念されています。母親の経済的な不安や高齢化による祖父母世代の介護、一人で子供を育てなくてはというプレッシャーからの過保護化など、ストレスが増加する要因が非常に多くなっています。このことは母親が子供に愛情を持って接することを難しくさせ、子供自身のストレスにもつながると言われています。さらに、社会に対応する能力とストレスの調整は脳内の同じ領域が司っていて、2つは一緒に発達するので、ストレスへの対応がうまく発達しなければ、社会への対応能力や感情の発達もまた妨げられると言われています。

 また経済的な格差の拡大により、周りの人間を信用する人が、減ってきていることも明らかにされています。

"アメリカ人で「ほとんどの人が信用できる」と感じている人の割合は、1960年の55%から2009年には32%に下落した。2012年のピュー・リサーチ・センターによる世論調査では、この数字は改善しているが、それでもミレニアル世代に限ると、わずか19%しか他の人々を信用できる人物だとみなしていない。"

 この傾向は、メディアによる政治家の汚職や虚偽、目撃者のいい加減な証言、有名人のスキャンダルや公的人物の評判失墜等に対するマスコミの派手な報道によって助長されていると言います。

 このような家族の解体と不安定な人間関係の中では、自分が目指したいと思うようなロールモデルを見つけることは、いっそう難しいことになっていくのかもしれません。

3. 解決策

 ここまで憂鬱な内容が続いてしまいましたが、では解決策として私たちにできることは何があるのでしょうか。著者は、以下の6つのアプローチを提案しており、ここでは「男たちにできること」を紹介したいと思います。

【解決策の分類】
1. 男たちにできること
2. 政府にできること
3. 学校にできること
4. 両親にできること
5. 女性にできること
6. メディアにできること

① 男たちにできること

ここでは男たちにできる解決策を3つ紹介します。

#1 自分の時間の使い方を把握する

 原因の解説で、ゲームプレイが長時間化している傾向があると述べましたが、このことを踏まえて自分が実際何時間ゲームに割いているのかという事を把握することから始めるのが良いとされています。そしてその時間の一部を、何かを達成したり、他の人との交流のあるアクティビティに使おうということが提案されています。前述したプレイ時間が週平均13時間とすると1年で676時間ゲームをすることになります。これを他のアクティビティと比較すると以下のようになりました。

1年間にティーンがゲームに費やす総時間の平均 → 約676時間
・外国語の基礎を習得 → 約200時間
・プログラミングの基礎を取得 → 約250時間
・ギターの演奏を修得 → 約260時間
・学校の学期内にスポーツを1種目履修 → 32時間

 こうやって年単位で時間を示されると凄みがありますね。「ゲームは面白いから長時間できるけど、外国語の勉強なんて1日に何時間もできない」という意見もありそうで、確かに自分もそう思います。なのでまずは自分の時間の使い方を把握することから始めるてみて、30分くらい違うことやってもよかったなと思えれば何かにトライしてみるくらいがいいのかなと思います。

 自分は日記を書く中で、1日を1時間単位で区切った表を用意しておいて、ざっくりその時間帯に何をしていたのか記録するようにしています。最初の方は「スマホゲームにこんなに時間を費やしていたのか!」や「ちょっとSNSをみていたはずが1時間近く使っている!」などと自分の体感とは違った事実に気づけてとても有用だったなと感じました。ここまで細かく書き起こさなくても、1日の終わりにその日の時間の使い方を振り返るでも効果があると思います。

#2 スポーツをする

 著者はソフトボールに対するひたむきな練習を通じて、学業に対する真面目な姿勢と、やがては恵まれない人たちに対する惜しみない奉仕の姿勢を学んだと述べています。後者が分かりにくいですが、つまり、「練習は必ずしも完璧な結果をもたらしてはくれないが、後々、あなたにとって重要な別の活動で、確実にあなたは有能にしてくれる」と言うことになります。

 またスポーツの場で、恐怖心を克服して身体的に勝ち抜ける多くの男たちが、他の男たちに対して自分を証明する必要を感じる代わりに、むしろ自分の中にある同情心や傷つきやすさや内省といった"女性的な"基本的価値観をはぐくめることを発見していると述べられています。そして個人スポーツは自己責任と精神力の強さを教え、チームスポーツは協力と立ち直る力を育てることができると指摘されています。

#3 内省する時間を作る

 著者は「ずっとやりたかったことを、やりなさい」(著:ジュリア・キャメロン)を引用し、何でも心に浮かんだことを3ページ書くと言う「モーニングページ」と言う作業を紹介しています。この作業を通じて「あなたは自分に対しいっそう正直になり、自分が誰かだけでなく、誰になりたいのかも発見するだろう。それがわかると、今の自分から将来の自分になるために努力するモチベーションが湧いてくる。」と述べています。

 確かに現代はスマホのパワーが強く、いつでもSNSや動画を見たりできてしまうので、自分の感情やその時思う事などを、じっくり考える機会が減っているように思います。内省の時間を設けることで、自分が何をしたいのかといった意義を見つけることができるのかもしれません。

 私は前述した日記を書く中で、その日の出来事や感情を整理するようにしています。そうすると結構時間がかかってしまったりするのですが、似たような後悔をすることが減ったり新しいアイデアが思い浮かんだりとメリットが大きいと感じています。また以前は入浴中にスマホを持ち込んで、音楽を聴いたり、動画を見たりしていたのですが、それを辞めて1日をじっくり振り返る時間にしています。以前は通学中に考え事をしていたのですが、テレワークになりその時間がなくなると、考える時間が著しく減ってしまい、日々が受動的に流れていくような印象を持ったのでこのように対策しました。

感想

 本書の大きなテーマは、若い男性がゲームやポルノに依存して、社会から脱落していることですが、実際に引きこもりになっていない人々にも、興味深い内容だったと思います。ゲームもポルノも一般に広く浸透していて、みんながやっているからこそ、これってまずいんだっけ?と疑問に思うことは個人的にはほとんどありませんでした。インターネットの浸透に加えて、昨今の外出自粛もあいまって、リアルな他者との交流がますます減っている社会情勢なので、これからこの「男子劣化社会」の傾向が強まるだろうという予測を持って日々の生活を見直していくことがより良い人生につながるのかなと思います。
 ポルノの話はあまり踏み込めませんでしたが、本著ではかなりのボリュームが割いてあり、新鮮な内容も多かったので、是非本書をお手に取ってみてください。

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