機能性が全て?「エモーショナル・デザイン」の紹介

おすすめ本

今回紹介したい本は、カリフォルニア大学名誉教授で認知科学者・認知工学者のドナルド ・A・ノーマンさんが書かれた、「エモーショナル・デザイン ー微笑を誘うモノたちのために」です。

アイキャッチ画像に要旨をまとめていますので、お時間無い方はそちらを見ていただけたらと思います。

1. 背景

 最近は、大量消費型社会による環境問題が深刻化しています。そんな中で、ヨーロッパを筆頭に、「商品は購入されたら終わりではなく、人手を経てその価値が維持され使われ続ける」といった、セカンダリ・マーケットの動きが注目を集めています。中には人手を経る中で、新たな付加価値を得るケースもあるそうです。このような持続可能な製品とは、どのようにデザインされるべきなのでしょうか?

2. 内容

魅力的なものの方がうまくいく

著者の提案
製品が成功するためには、実用面よりも情動面のデザインの方が重要なのではないか。

① 神経科学者アントニオ・ダマシオの実験  

 脳の情動システム部分に障害を持つこと以外は、正常な人々を研究すると、彼らは物事を決められず、世の中でうまく行動することができなかった。これは、意思決定こそ合理的で論理的な思考の要だと言う一般に信じられている考えを覆した。

感情システムは、良いか悪いかを迅速に判断するのを助け、考慮すべき選択肢を減らすことによって意思決定を支えている。

② 心理学者アリス・アイセンの研究

難しい問題の解決や枠組みに捕らわれない考え方をする必要があるとき、気分を良くするような贈り物をもらうとよりよく解決する。 ここでの贈り物とは、お笑い動画や小さなキャンディ袋といった些細なものであった。

幸せな気分であることが、思考のプロセスを拡大して、創造的な思考を促進する。

より具体的には、、

・気分の良いときには、ブレインストーミングや複数の選択肢の吟味がうまくいく。
・さらには別の解決策を見つけるのが上手く、その結果ささいな困難には耐えうる。

・一方で、不安な時は問題に直接関わる側面だけに集中するため、思考プロセスが狭まりがちになる。

✔️ 製品デザインにおける美の役割 が示唆される

処理の3つのレベル

人間の情動の特性は、脳機能の3つの異なるレベルに起因する。


1. 本能レベル
自動的で生来的な層。見かけが問題であり、第一印象に関わる。

2. 行動レベル
日常的な行動を制御する層。機能・性能・使い勝手が問題であり、製品の使用や体験に関わる。

3. 内省レベル
熟慮する層。意識・情動・認知に関わる。解釈・理解・推論がもたらされ、他の層を覆すことができる。

3つの処理レベルの関係性 ♢♢

 本能レベルから始まった感情処理は、行動レベルによって促進または抑制され、行動レベルは内省レベルによって促進または抑制される。最上位の内省レベルは、感覚の入力にも行動の制御にも直接は関わっておらず、行動レベルを監視し、熟慮することでバイアスをかけようとしている。
 また、時間軸や個人差の観点でも相違点がみられる。

デザインの3つのレベル

 以下では上述の3つのレベルの処理にそれぞれ対応する、3つのデザインについて紹介する。


1. 本能的デザイン

外観:見た目、手触り、音と言った物理的な特徴が支配力を持つ。

製品は潜在的な買い手の美的感覚にアピールしなければ、いくら性能がよくても売れないとされる。

2. 行動的デザイン

使うことの喜びと効用:機能が最優先課題であり全て。製品のニーズを満たしていること

良い行動的デザインは人間中心でなければならない。製品を実際に利用する人のニーズを理解し、ニーズを満たす事に焦点を合わせたものでなくてはならない。そういうニーズを見つける一番の方法は、製品が自然に用いられているところを観察する事である。

 ➡︎ いわゆる「デザイン思考」

3. 内省的デザイン

自己イメージ・個人的満足感・思い出:製品はその機能の集合以上のものになりうる。

それらの真の価値は、人々の情動的なニーズを満たす事であり、その中で最も重要なニーズは、自己イメージと世界における位置を確立する事にある。

内省的デザインはやや抽象的ですが、本著では以下の腕時計が例として挙げられています。

 左の腕時計はタイム・バイ・デザイン社の「パイ」という時計で、4時13分37秒を示している。
  
Q1. 伝統的なアナログ時計やデジタル時計よりも時間が分かりにくい?
  A1.
勿論そうだが、直感的で、一度説明されれば混乱しない。

 Q2. つまみが一つしかなくて時刻あわせがやりにくい?
   A2.
見せびらかして操作を説明するという内省的な喜びがその難しさに勝る。
     ▷▶︎
内省的な価値が行動的な困難に勝る


 では3つのデザインの全てがうまく機能しているのは具体的にどんなモノか?
 以下で、ハーブスト・ラザー・ベル社がデザインした、モトローラ社のプロフットボールリーグのコーチ用ヘッドセットを紹介する。

機能として優れているのは勿論のこと、モトローラ社を宣伝するための効果的な道具として、またコーチの自己イメージを拡大するものとしての役割も果たした。


1人でデザインするか? チームでデザインするか?

行動的デザインはグループでデザインされるべきであり、成功する製品をもたらす。
本能的内省的デザインは一人の人間のビジョンに駆動されるべきかもしれず、世界を変えうる偉大な製品をもたらす。

才気あふれるコンセプチュアルアーティストのビタリー・コマールとアレックス・メラミッドは、「あなたの好きな色は何ですか?」「肖像画よりも風景画の方が好きですか?」などと人々に尋ねた。それに基づいて、完全なる「ユーザー中心の芸術」を展示した。出来上がった結果は、全くつまらないものになった。作品は、完全に斬新さやプロの技巧を欠き、調査回答者にさえも嫌われた。「良い芸術とは多次元空間の最適解ではない。もちろん、それこそが彼らの主張である。同じ様に、完全な「ユーザー中心のデザイン」も、まさに芸術性を欠き、全くうんざりするものとなる。」

まとめ

 魅力的なモノはよりうまく働く。その魅力が心のプロセスをより創造的にし、ちょっとした困難により耐えうるようにして、ポジティブな情動を生み出す。
 三つのレベルの処理は、対応する三つの形のデザインにつながる。本能的、行動的、内省的デザインである。それぞれが人の行動に重要な役割を果たし、デザイン、販売、および製品の使い勝手に均しく重要である。

3. 感想

 私は20代なのですが、生まれた時から生活に必要なものが揃っている我々の世代にとって、機能的なニーズだけでなく、情動に訴えかけてくるような製品が大切というのはとても共感できました。本著の中では、使いずらそうだけど、なんかちょっと笑ってしまうような、ユニークな製品が数多く紹介されています。最初に述べたように、大量消費の傾向にある社会の中で、使い続けられるモノであるためには、内省的な要素が大切だと思いました。ただ、前回投稿した「世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?」でも挙げられていましたが、日本では特に、市場調査至上主義的な風潮がまだまだ根強いのかなと言った印象もあります。普通の会社員レベルでは、なかなか製品をデザインするなんて、親近感が湧きませんが、「魅力的なものの方がうまくいく」の章で示したように、ちょっとした遊び心はあった方がいいなと思いました。例えば、作成する資料であったり、身に付けるものであったり。こういった要素は数字で評価しにくいので、無駄なんじゃないかという意見もあると思いますが、本著の中で自分が一番気に入っているフレーズ「ささいなことだろうか。その通りだが、意味のあるものだ。」を頭の片隅に置いておきたいなと感じました。

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