清華大生が見た最先端社会、中国のリアル

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 みなさんは毎日ニュースをチェックしているでしょうか。最近はテレビや新聞といった大衆向けのニュース媒体よりも、SNSやYoutubeで、ある程度自分好みにカスタマイズされたトピックのニュースを見ることも多くなっている様に思います。そんな中で限定的な情報しか入って来なくなってしまい、世の中を正確に把握できなくなる恐れがあるというのは一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

 私自身もニュースから得られる情報の偏りは気になっていました。特に日本にいると、グローバルなニュースが米国ベースのメディアに依存しており、米国以外から見た世界は、昔から自分の中にあるイメージ・偏見がベースになっている様に思います。

 この西側メディアからの情報の偏りへの対策の第一歩として、今回手に取ったのは「清華大生が見た最先端社会、中国のリアル」です。

 著者の夏目英男さんは、5歳のときに両親の仕事の都合で中国へ移住しています。東京生まれ北京育ちで、紆余曲折あり中国トップ大学である清華大学に進学されたという経歴の持ち主です。1995年生まれということで、数年前まで大学生であった著者の目線から見た、中国の若者のリアルが書かれています。最初に述べたいのは、本当に中国のイメージが変わるということと、そんな実態は自分から知りに行かないと知るよしもなかったということです。

 今回は本著の中から、次のトピックをご紹介したいと思います。

  • 中国社会の変遷と若者の思想
  • 世界最先端のアプリ大国の日常
  • 日本の若者と中国の若者はどこが違う?

1. 中国社会の変遷と若者の思想

1.1. 時代の変遷

 まずは過去数十年の間に、中国社会でどの様な変化が起こってきたのかをざっと確認したいと思います。以下に主要な出来事を書き出しましたが、特に1980年代は激動の時代であったことが伺えます。

 大きな流れとしては、建国の父である毛沢東の計画経済(政府主導のもとで平等な生産を行い、生産性が落ちたため経済の停滞を招いた)や大躍進政策(イギリスに習い製鉄を行うも森林伐採や、農具などの生活必需品に含まれる鉄などの資源の過剰使用による貧困の増加を招いた)で疲弊しきった中国経済を、鄧小平という人物が改革開放で市場経済を導入し立て直してきた、ということになります。

 これにより目覚ましい経済成長を遂げるも、貧富の差の拡大や官僚の汚職や腐敗が深刻化し、学生中心のデモ活動である天安門事件の引き金となりました。武力行使による鎮圧という最悪の結果を招いたため、天安門事件は改革開放が一時中断するほどの大事件となりました。

 1993年ごろから再開された改革開放で順調に経済成長を遂げていた中国は、2008年の北京オリンピックを推進機として、更なる発展を遂げたと言います。著者も北京オリンピックの期間は凄まじく変貌していく北京の都市景観に驚かされたと言います。そしてこの激動の発展を遂げた中国を目の当たりにしていた現在のチャイナユース(中国の若者)には日本人には欠けていると言われる愛国心が垣間見られると述べています。

1.2. 若者の特徴

 また、それぞれの時代(1980年代・1990年代・2000年代)に生まれた人々は、これらの時代背景をもとに、それぞれ次のような特徴を持つことが多いと著者は述べています。

 中国版センター試験である「高考」は、学歴社会である中国において学生の進路、すなわちキャリアを決定付ける非常に大きな要因で、「80後」だけでなく、現代の学生にも多大な影響力を持つ人生の一大イベントとなっています。

 また「90後」以降のチャイナユースには海外留学者が特に多く、それにより海外との親和性も高い傾向にあると言います。日本との関係に関して言えば、「90後」以降の多くは日本のアニメと共に幼少期を過ごし、成人後も日本の文化やサブカルチャーを愛する人も多いそうです。

 一時期、中国人観光客が数多く日本にやってきて様々な商品を爆買いしたとのニュースがよく報道されていたのではないかと思います。これについて著者は以下のように述べています。

 中国人観光客は、日本をただ観光するだけではなく、日本を訪問することで、日本の文化や道徳、環境への取り組み、おもてなしの心などを学び、それらを持って帰国の途につきます。日本のメディアでは、中国人観光客の素行の悪さや爆買い現象などといった側面が捉えられがちですが、それは一方的な見方であり、すべての中国人がそういうわけではありません。もちろん、未だに地方農村部や上の世代では日本に対して歴史問題を深く抱え、反日感情を抱いている人も多いですが、イマの若者は少なくとも日本や中国メディアで報じられていることとは裏腹に、日本のサブカルチャーを通して、日本のファンである人が多いと思います。これらの事実があるから、中国人に対して印象を悪くし、彼らと距離を置くのは間違いだと思います

本著 第1章 「日本の漫画やアニメなどサブカルチャーによる影響」

 著者は、今後彼らが社会の最前線に立った時に、日中関係にも大きな変化を生むだろうと期待を込めています。

1.3. 現在の中国の環境

 次に現代のチャイナユースを取り巻く環境について次の3点をご紹介します。上記の歴史を踏んで目覚ましい経済成長を遂げた中国の現在を生きる「80後・90後・00後」はどのような社会環境にいるのでしょうか。その大きなトレンドとしては「就職難」「低賃金」があり、以下の3つに代表されていると言います。

  二大トレンドのひとつである「就職難」は主に、中国の国内総生産(GDP)成長率が米中貿易摩擦などの影響で減速し、需要と供給のミスマッチが発生したことに起因しています。このことが就職氷河期を生み「996」勤務体制といった過酷な労働条件であっても、日本では考えられないような求人倍率を引き起こしています。

 「低賃金」に関しては上記のように、大卒の平均月収は比較的低水準です。主要都市では、月収の大半を家賃に当ててても1人部屋を借りるのは困難なことから、ルームシェアをする若者が数多くいるとのことです。日本では都心であっても、まだまだ一人暮らしが可能だと思うので自分は読んでいてかなりギャップを感じました。

 この「低賃金」が上記の「副業剛需」を生むのですが、「996」に見られるような過酷な勤務状況を踏まえると厳しい現実なのかなと思えてしまいます。

 最後の「低欲望社会」は日本が現在経験している社会状況と比較的似ているかもしれません。以前「男子劣化社会」とうい本の紹介で述べましたが、ここには先進国特有の、社会への期待感を失った若者の存在があるのかも知れません。

 しかし著者は、中国での「低欲望社会」は日本のそれとの相違点があるとも述べています。中国での「低欲望社会」は、社会への期待感を失い、独身状態は貫くものの、向上心は依然として高く、自分が定義する成功への執着心は誰よりも強いとのことです。社会競争の激しい中国では、競争に参加しなければ「低欲望社会」であっても生き抜くのは困難であるということです。

 このように聞くと、弱肉強食の世界すぎて、人生を諦めてしまいそうにはならないのかなと私は思ってしまいましたが、筆者が見たチャイナユースは、この険しい環境下でもめげずに努力し、生き抜くことを選択していると言います。この荒波に立ち向かうチャイナユースから学べることは多いのではないでしょうか。

2. 世界最先端のアプリ大国の日常

 1章で「90後」や「00後」がデジタルネイティブとして成長してきたと述べましたが、実際彼らの生活はどのようになっているのでしょうか。著者は、欧米諸国と比べるとPC分野での蓄積が少なかった中国では、2010年前後にスマートフォンが驚くべき速さで普及したと述べています。それに伴い多種多様なアプリも急速に登場し、今では1日の生活が常にアプリの使用と並走するまでになっています。

 朝のニュースチェックやECの利用など、日本でも馴染み深いアプリも勿論多いです。一方で、次に挙げるような日本ではあまり見られないアプリの利用シーンも存在しています

 個人的に印象深いのは、職場のプロジェクトチーム単位でフードデリバリーを利用し、後からスマホ決済機能で割り勘するケースです。日本でもスマホ決済は普及を見せていますが、未だに現金派が多かったり、多種多様なアプリが連立しておりシェアが分かれているのが現状かなと思います。私はキャッシュレス派なのですが飲み会の割り勘などは、ひとりでも現金派の人がいたり、使用しているスマホ決済アプリが異なると成り立たなくなってしまうので、結局は現金を最低限は持たざるを得なくなりとても煩わしい思いをしていました。

3. 日本の若者と中国の若者はどこが違う?

 最後に日本の大学生と、清華大学生の1日のスケジュールの比較をしていきたいと思います。著者の主観も多く、清華大学生のスケジュールが中国代表というわけではないので、鵜呑みにはできませんが、それでも目を見張るほどの清華大学生の努力家っぷりには驚かされました。

 (私自身、数年前まで旧帝大の学生でしたが、夜の時間にこんなに勉強している学生はあんまりいないんじゃないかなというのが体感です、、参考までに。)

 1つ目の大きな違いはアルバイトの有無だと思います。在学中にアルバイトをすることは東アジアにおいて日本固有の文化であると言えるそうです。中国では学業面の負担が大きいことと、時給水準が低めで、学費や食費が国の補助により比較的安く済むため、アルバイトをしない学生が大半だそうです。

 2つ目の大きな違いとして、中国の大学生はその多くが寮で生活しているため、通学がなく、その分の朝の時間を勉強に充てているという点です。大学の図書館が開館と同時に満席になり、席取り競走が行われるというのも驚きです。1日のスケジュールを見ると、朝の時間以外にも、学習に占める割合が多いのが目立ちます。寮生活では仲間との結びつきや環境整備の観点から、学生にポジティブな影響を数多く与えていますが、著者はその分外の世界に触れ合う機会が少なく、コミュニケーションスキルや生活に密着したスキルが育まれにくいデメリットもあると述べています。

4. エピローグ ー日中新時代に向けて

 清華大学に進学した著者ですが、長期休暇には日本に帰っていたそうです。そこで感じた中国と日本の差は、今まで述べてきたようなサービスなどの差(中国のキャッシュレス化に対して日本の現金社会、日本のオフラインサービスがまだまだ主流な現状など)だけでなく「人」にもあったとエピローグで語っていました。

清華大学に進学し、周りの学生は皆高い理想を掲げ、自分や家族のため、そして中国という祖国のために奮闘し、いつかは社会をも変えたいという信念のもと、日々勉学に打ち込んでいました。しかし、日本に帰国し、友人や知り合いに〝国〟や〝社会〟というキーワードについて話すと、〝意識が高い〟というレッテルを貼られ、その話題自体回避されることが多くあります。実際、日本財団が2019年に発表した18歳意識調査である「社会や国に対する意識調査」でも、日本は「自分は責任がある社会の一員だと思う」、「自分で国や社会を変えられると思う」といったすべての項目において、調査対象である9カ国の学生の中で、大差で最下位となっています。(中略)本書が伝えたいこと、それは中国の現状について正しく理解した上で、ジャパンユースやビジネスパーソンにイマの選択肢や考えを再考するキッカケを与えたいということです。

本著 エピローグ より引用

 人生の考え方は人それぞれなので、上述した清華大学の学生のように、社会貢献に取り組むことがいいことであるとは言えません。ですが、日本における「意識高い系」と言った圧力に流されて、自分のやりたいことに蓋をしてしまうのは勿体ないことなのかな、とも思いました。いずれにせよ清華大学生のように、厳しい環境下にあっても努力を続ける同世代の若者がいるという事実は知っておくべきだなと感じました。

感想

 情報量が多く、自力での取捨選択が難しい現代では、AIなどによって自分好みの情報だけが入ってくるようになり、かつそれが心地よいといったある種、恐ろしい状況が生まれています。そのような状況下では、幼少期の記憶やメディアのイメージに引っ張られて海外のイマを正しく認識できていないということを本著を通じて痛感しました。海外の"イマ"のスタンダードを知れば、そのアイデアを自身の生活を改善するきっかけにもできるなと感じます(今回で言うと日本では馴染みの薄い新しいアプリの利用やチャイナユースに親日なマインドの人が多いという事実など)。

 また今回見てきたような中国の過酷な競争社会や、「就職難」「低賃金」な現状を考えると日本に住む我々がいかに恵まれた環境にいるのかを再確認できるのも、個人的にはとてもよかったと思います。メディアが西側寄りということ以前に、ネガティブな内容のニュースが多いことから、日本の悪いところがフォーカスされがちですが、こうやって比較すると、都心での一人暮らしが可能なところや労働条件の見直しが比較的進んでいるところなど日本の良い面に感謝しなきゃなと思いました。

 本著では他にも中国における二大メガプラットフォーマーである「アリババ」と「テンセント」の進撃やユニークで多種多様なアプリの紹介などもまだまだ数多く紹介されています。もし興味をお持ちいただけましたら是非ご一読ください!

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