ブルックリンの少女

おすすめ本

人気小説家のラファエルは、婚約者のアンナと南フランスで休暇を楽しんでいた。

なぜか過去をひた隠しにするアンナに彼が詰め寄ると、観念した彼女が差し出したのは衝撃的な光景の写真。 そして直後にアンナは失踪。

友人の元警部、マルクと共にラファエルが調査を進めると、かつて起きた不審な事件や事故が浮上する。

彼女の秘められた半生とはいったい…

失踪、監禁、増え続ける被害者

この本は、前回紹介した「夜と少女」の作者であるフランスのベストセラー作家ギヨーム・ミュッソさんが2016年に書かれ、2018年に邦訳された一冊です。

フランスを舞台に、3週間後に結婚を控えた旅行中のカップルが、小さな喧嘩をするところからストーリーが始まります。

喧嘩を発端に、アンナは失踪してしまい、失踪からの激動の3日間が描かれています。

恋人間での小さな喧嘩から始まったはずなのに、過去の重大犯罪や巨大な利権が絡むことが次第に見え始め、みるみる重大事件へと発展していくスピード感は、「夜と少女」の紹介で示した通りです。

二人の出会い

この本の特徴として、ネタバレせずに紹介しようと思うとほとんどの情報が書けなくなるくらい、段階的に明らかになる衝撃の事実が数多散りばめられています。

強いて言えば、ラファエルとアンナは結婚式を3週間後に控えたカップルですが、初めて出会ったのは6ヶ月前であり、これ以前の過去についてアンナが意図的に隠していたという状況になっています。

アンナは25歳。ラファエルの年齢は書かれていなかったと思いますが、一度離婚経験があり、前の奥さんとの間にテオという一人息子がいます。

テオがまだ生後数週間の頃に、仕事中毒だった奥さんが育児を事実上放棄し、ラファエルが一人で子育てをしてきました。

そのテオが体調を崩したときに連れて行った小児科で、研修医をしていたのがアンナです。

作品の見どころ

 私自身も普通の生活はもう決して送れないだろうとわかっていた。他の人たちの目には、私は2年以上も異常者によって監禁され犯され続けた娘なのだ。それが私に貼られたレッテル、どうしても剥がれてくれないレッテルだ。 自分についての問いに答えることを強制されている見世物になってしまう。あの怪物は何をあなたにしたのか?その頻度は?どのように?警察は知りたがるだろう。裁判所も知りたがるだろう。私は答えるだろうが、今度は違う疑問を提供してしまう。より知りたがるのが彼らの常である。さらに、何から何までさらけ出さなければいけない。もっと、もっと。
 もしかしたら、ある日、私は恋をするかもしれない。私を愛し、私を笑わせ、また私を守ると同時に、自立も尊重してくれる男性に出会うかもしれない。(・・・)そして、私が何者なのか彼に知られる瞬間が訪れる。キーファーに拉致された少女。そのレッテルは他の全てを覆ってしまう。それでも、きっと彼は私を愛し続けてくれるだろう。しかし、それまでの愛し方とは違っている。同情心と哀れみが加わっているからだ。でもその哀れみを、私は受けたくない。人々の注目の的になったキャンディスのようにはなりたくない。

ー ブルックリンの少女

あなたも知ってるだろうが、インターネットと言うのは何も消せない。人間は自分でもはやコントロール不能の怪物を生み出してしまったわけだ。

ー ブルックリンの少女

デリカシーのないメディアによる被害者について書かれた作品はいくつもありますが、その役割を今一度考えさせられるフレーズたちでした。

若い世代を中心にテレビの視聴率こそ下がっているものの、TwitterやLINEにもニュースがデフォルトで組み込まれており、その書き方ひとつで私たちの印象は変わってきてしまいます。

センセーショナルな書き方をしたほうが売れるというのは事実なので、誰に非があるのかというのは難しい話ですが、この背後に苦しむ人がいるんだなというのは忘れずにいたいものです。

時代間やスケールこそ違いますが、似たテーマを扱う作品として太田愛さんの「天上の葦」を思い出しました。

メディアの印象操作と言った社会問題は、複雑で難しいのでそれ自体を考えると答えがなかなか出ませんが、今回のように小説として出会うと、心情面で印象深く記憶に残り、これもまたいい経験なのかもしれません。


父親になることを私が熱望したのもそれが理由だった。子供を持つ事は、面倒なノスタルジーと干からびた新鮮さに対する解毒剤である。子供を持つ事は、重過ぎる過去を切り捨て、己を明日に向かわせるためにある、ひとつの方便かもしれない。子供を持てば、過去よりも未来がより重要になると言うことだ。子供を持つのは、もはや過去が未来に打ち勝つことなどありえないと確信することでもある。

ー ブルックリンの少女

主人公ラファエルの息子テオを筆頭に、親子関係にフォーカスが当たることが多いのも、本作の見どころの1つです。

上記の引用にあるように、子供が生まれると人生が変わるという発言は、(もちろん例外があるでしょうし、)私自身がまだ子供を持っていないので実体験としては感想が持てないのですが、作中の何人もの人物が、子供を得たことで人生に希望を見出していくような描写はみていて心地よかったです。

また、物語の発端であるところの「パートナーの過去を全て知りたいと思うか?」について考えてみると、個人的には知らなくてもいいのかなと読んでいて思いました。

以前取り上げた「個性学入門」という本にあったように、人間には複数の顔があり、それぞれが異なる役割を持っていることもあるのだから、自分と相手の関係の中における役割というものを尊重できればいいのかなと思いつつ、これは現実逃避かもしれないという気もしてきます。


フランスのベストセラー作家ギヨーム・ミュッソさんの作品を合計2作紹介してきました。

個人的には、今回の「ブルックリンの少女」の方が複雑度は比較的低く、ストーリーが入ってきやすかったです。

ページ数は文庫版で「夜と少女」が416ページ、「ブルックリンの少女」が480ページとなっています。

長編に分類されるかと思いますが、どちらも最後の最後までスリルに満ちた、気が抜けない展開となっているので是非ご一読ください!

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